
「おい、のり、ちょっと漢文読んでくれやんか。」
こんなことをおっしゃるのは、いつものヒゲの先生。
「意味を知りたがっとる人がおるんや。短い文なんやけどな。」
半ば強制的に渡された紙切れに書かれたものは、確かに短い漢文。
というか、碑文の写しだった。
先生のご友人のお墓の横に建つ石碑に書かれた文章の解読を試みたが
意味が掴めないのだと言われる。
幸いにも1字1字活字にして書き出してあり、固有名詞であろう箇所は注がある。
が、句点がない。
断るわけにもいかず仕方なく、「ちょっと時間を頂戴します。」
そうお応えしたものの手こずって、苦労の果てに、
間違いもあるかもしれないとお断りした上で、
書き下しと口語訳を何とかお渡しすることができた。

そしたら、ご褒美だと仰って下さったのが右。
「仿古幣蔵墨」と書いてあるのか。
20年位前に中国の友人がお土産に下さった物とか。
その虫食いの様子がいかにも古めかしい。
「仿」。
「イ:人」+「方」。
「方」は、
両側に同じように柄の張り出た鋤(すき)を描いた象形文字で、
同じように二つに横に並ぶことを表します。
それから、「仿:よく似ている」や「倣:同じようにまねる」の意を派生しました。
「仿」は、右に左にと張り出すことから、右に左にさまようの意ともなります。
また、「彷」もほぼ同じ意味となります。
紫紺の絹張りの箱に納められたのは、

こんなきれいに金彩された墨だった。
使うものではないかもしれない。
いろいろなものをかたどって、
そこにいろいろな文字が書き込まれている。
金文、篆文、隷書に楷書、字体は各種にわたる。
まさに古(いにしえ)を彷徨うようだ。
「のり、今度はここに書いてある字を読んでみるか?」
・・・・
高校を卒業して35年。
未だに元担任から宿題を出されている生徒も珍しいのではないか。
レポート提出期限に間に合うように、また辞書や事典とにらめっこの日々が待っている。