その後もボクは、店に出てコンスタントに客を取った。

稼いでも、稼いだだけ使ったので、貯まることはなかった。


ある日、ケンゴウが仕事を始めると言い出した。

何処だかの知り合いの伝で、サラ金の従業員になると言う。

給料もまずまずだったが、どうせ、取立要員に違いないので、怪しげな商売だとも思った。

しかし、取り敢えず、朝出勤するケンゴウのために、いつもなら真夜中の時間帯である8時頃起き出して、朝食を健気にも作ったりしたが、ケンゴウもそんなに早くから飯など食えないと言うので、すぐに止めてしまった。

そのうち、勝手に起きて出て行くケンゴウを見送ることもなくなった。

ケンゴウは、夕方からは取立に行くので、ボクは仕事に行く以外全く独りで居るようになっていた。

ボクは昼頃起き出して、パチンコに行き時間を潰した。


店の方は、自殺未遂騒動の後、どうにも馬鹿らしくなり居直ったら、それが案外女達にすんなりと受け入れられて、最初の頃に比べたらずっと居心地が良くなってきたから、不思議なものだと思った。

おばさんと呼んでも可笑しくない女達に混じって、色んな話しをするようになっていた。

古株の何人かは、全く本番をしないという。

ボクが、手でするよりよっぽど簡単だし稼げるのに、何でしないのと聞くと、本番専門のボクの手前なのか、はっきりとは言わないながら、彼女たちにはその線で一線を画しているといった気概というか何かがあるのだと言うことは伝わって来た。

一人はボクくらいの年齢の息子が居るという。おばさんだと思ったのも頷けた。また一人は、ボクは言われるまで気づかなかったのだが、小児麻痺で片足が少し不自由だという。そして、男を養っている。他にも、本人は言わないが、ヤク中だと他のみんなに言われている人も居た。

仲良くなれたのは良かったのだが、年の離れた姉や母のような人たちに比べて、どうしても客が多く付くボクは、次第に逆に居たたまれない気持ちになってしまったが、どうすることもできなかった。

ケンゴウが居るかどうかも分からないまま帰ってきたが、ここに来て鍵を持っていないことに思い当たりまずいと思ったが、ドアノブは廻った。

ほっとしてドアを開けると、中に入り後ろ手にドアを閉めた。

漸く母は諦めたのか、エンジン音が聞こえて走り去ったようだった。

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しかし、部屋には誰も居なかった。

鍵を持たないボクのために、鍵を開けたままケンゴウは出掛けたようだった。

サンダルを脱ぎ部屋に上がると、台所の水屋の中に、卵焼きがあった。

ケンゴウが焼いたのだろう。

ボクのために。

こんなことは初めてのことで、嬉しくもあったが、何故か侘びしくもあった。


ボクは、布団を敷き横たわった。

一睡もしていなかったので、身体が怠かった。

そのまま目を閉じると、身体が沈み込むように眠りへと誘われていった。


物音で目が醒めた。

ボクの顔を覗き込む、ケンゴウが居た。

ボクはケンゴウに手を差し延べた。
抱きしめて、布団の中にケンゴウを引き込んだ。

優しく交わり、ケンゴウの絶頂を受け止めた。 


ボクもケンゴウも、多くは語らなかった。

ただ、助かって良かったと、ケンゴウは言った。

ボクも、ごめん、とだけ言った。

そのあと、ぐにゃぐにゃのお前は結構重かったぞと言われ、そんなことないよとボクも言い、ふざけあった。

ボクは、きっとこのまま続いていくんだろうなと思うと、情けなくもあり、疎ましくもあったが、ボクの人生こんなもんだと、諦めもした。


その日は、結局店を休んだが、次の日からまた店に出ることにした。

何も変わってはいなかった。

看護婦に静かな口調で厳しく咎められて、そのまま病室に連れ戻されてしまった。

それからは、まんじりともせずに、ベッドの上で夜を明かした。

何故眠れないのだろう。

不思議だった。

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やっとのことで夜が明けた。

母は、折りたたみの椅子で、壁に凭れながら眠っていた。

ちらりと見たその寝顔は、昨夜にも増してやつれて見えた。

途中、追加された点滴も朝方には取れたが、注射液が漏れたのかボクの腕は青痣になっていた。

何となくそれを押したり撫でたりしていると、母が起き出して傍に寄ってきた。

ボクはシャツの袖を伸ばすと、布団の中に手を入れて目を閉じた。


「どう、気分は?」

「どうって、別にどうもないけど。」

「そう・・・。大丈夫なら、よかった。」


会話も続かなかった。

母は、暫くその場に佇んでいたが、また椅子に腰掛けた。


だんだんと病院内がざわつき始めた頃、医師と看護婦がやって来た。

母が、礼を述べている。

ボクも目を開けて、医師の方を見た。

布団をはぐって形式のように聴診器を当てた。


「何か悩んでいることがあったら、いつでも来なさい。私は此処の内科にいるから、相談に乗るよ。」

「はい。」


取り敢えずそう答えたが、来るつもりなど更々なかった。

別に自殺を図った訳でもないし、誰かに相談するようなことでもない。

面倒くさいとさえ思わなければ、充分これからだって生きては行ける。


大分待たされて、昼前に病院の会計を終えると、母が家に帰ろうと言い出した。

嫌だと言ったが、どうしても連れて帰ると言い張るので、暫く押し問答が続いた。

しかし、ボクの部屋には、遠方の従妹がこちらの高校に通うため寄宿していることを知っていたので、ボクは頑なに拒んだ。そんな場所に帰っても、気詰まりで落ち着かない。

最早、家にボクの居場所などないのだ。

それに、父にどんな面をして顔を合わせればいいのかと考えると、ますます気が重かった。


結局、ボクが我を通し、アパートまで送ってもらうことにした。

車を降りて階段を上る間、母は車を止めたままで居た。きっと、ボクの方を食い入るように見つめているのだろう。

ケンゴウが居るかどうかも分からないまま帰ってきたが、ここに来て鍵を持っていないことに思い当たりまずいと思ったが、ドアノブは廻った。

ほっとしてドアを開けると、中に入り後ろ手にドアを閉めた。

漸く母は諦めたのか、エンジン音が聞こえて走り去ったようだった。