「何してるの。寝てなきゃ、駄目よ。」
「トイレ。」
「看護婦さん、呼ぶから、待って。」
「いいよ、一人で行けるから。」
「でも・・・。」
「いいから、ほっといて。」
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ボクは、点滴が入っていることを失念していたが、足元を見ればキャスター付きだったので、支えにしながら押していけると思った。
ここが、一体何処の病院かすら知らないので、トイレの位置など皆目分からなかったが、歩いていれば何処かにあるだろうと、ふらふらしながら探した。
何故か、頭が割れるように痛んだ。
此処は一階だったようで、少し歩くと待合室のような場所に出た。
手近にあったトイレに入り、用を足した。
母は、ボクがほっとけと言ったから、部屋で待っているようで、ついて来ては居なかった。
用を足しながら、ボクは風呂に入っていたのに、ちゃんと服を着ているところを見ると、これはケンゴウが着せてくれた物なんだとやっと気づいた。
ボクの好きな、緑のタータンチェック柄をしたボタンダウンのシャツだった。
短いデニムのスカートを履いていた。
下着はシンプルな物だった。
ふと、ケンゴウを思った。
トイレから出ると、病室には戻らず、カラカラと点滴のキャスターを押しながら、待合室の方へと向かった。
無性に煙草が吸いたかった。
ポケットを探ったが金を持っているはずもなく、病室まで戻って母に金を貰おうかどうしようかと足を止めて思案したが、人影を見つけて近寄った。
中年の男が、ちょうど煙草を吸っていた。
僕は頼み込んで一本分けてもらった。
ハイライトだった。
火を点けてもらい礼を言うと、座らずにぶらぶらと歩いた。
中ほどまで吸った頃、廊下の向こうから足音が聞こえてきた。
走っている。
どんどんその音が近づいてきて、僕は吸いかけの煙草を取り上げられた。
看護婦が、鬼のような形相で僕を見つめていた。
その隣には母も居たが、どんな顔をしていたかよく見なかった。
看護婦に静かな口調で厳しく咎められて、そのまま病室に連れ戻されてしまった。
それからは、まんじりともせずに、ベッドの上で夜を明かした。
何故眠れないのだろう。
不思議だった。