目貫と目釘は古い時代では一体だったといいます。
時代が下り目釘は竹になり目貫が分離して飾りとして残った。
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日本刀の一番の弱点は間違いなく目釘です。実用品として考えるとこれは構造上の欠陥であると言っても過言ではないはずです。竹の目釘が1本折れるだけで日本刀は使用できなくなります。
実際に昭和の戦争における日本刀の損傷で最も多いのがこの目釘折れであったと記録されています。武道の試し斬りですら目釘が折れる事があると聞きますし、実際に折れた目釘を見せてもらった事があります。
↑三色軍刀
目釘折れが頻発したために改良されて、2本目釘になりました。鍔側の目釘は金属ネジです。
2本目釘は柄が壊れやすくなるので良くないとか、金属目釘は柄が壊れやすくなるので良くないという人がいます。実際にそうなのでしょう。しかし、諸問題を勘案すればこれが一番最適だというのが合理的な判断だったのだと思います。そして、私個人としても日本刀を道具として使用するなら普通の1本竹目釘の構造よりもこの三式軍刀の構造の方が絶対に優れていると思います。金属目釘にしても金属のハトメを柄の目釘穴に嵌めれば柄は割れないとも聞きます。
もっと単純に、竹目釘でよいので2本目釘にした方が絶対に良いはずです。それだけで刀身が飛び出してしまうリスクも日本刀が使用できなくなるリスクも激減します。
柄の損傷を気にするのであれば柄頭側の柄の目釘穴をを刀身の目釘穴よりも細くして、目釘が刀身のナカゴと接しないようにすれば良いのです。実際に2本目釘にする時はそうしろと言われます。ただ、そこまで気にしなくても竹より硬い木材で柄を作れば良いだけです。そもそも朴の木で柄を作るようになったのも江戸時代以降の事だと聞きます。
竹の気乾比重は0.60
※気乾比重=木材の強度
樫(アカガシ):0.87
檀
黒檀コクタン 1.16
白檀ビャクダン 0.95~0.99
紫檀シタン 0.82~1.09
欅:0.69(0.47~0.84)
楢(ナラ): 0.67(0.45~0.90)
胡桃(ウォールナット?):0.64
梓あずさ(ミズメ):0.60~0.72
桜(ヤマザクラ):約0.60
朴(ホオ): 0.48
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日本刀の目釘はなぜずっと1本だったのでしょうか。これは実用面でいうととても不思議な事です。昭和の戦争時に限らず日本刀を使用していれば必ず目釘折れは起こったはずなのです。致命的な欠陥だとも思えます。
しかし戦国時代の刀ですら2本目釘の刀はない。片手使用の茎の短い末古刀だって2本目釘にした方が絶対に壊れにくくなるのに。
数打ち物と呼ばれる実戦用の量産刀であっても見かけません。2本目釘にする事は大した手間でもないはずなのに。
いつの時代も日本刀は実際に使用される事は稀だったのでしょうか。
当初の「目貫と一体の金属目釘」はもちろん実用品ではありません。儀仗刀用です。これだと使えないから竹目釘になったのです。
南北朝時代頃に茎の中央にあった目釘穴が鍔側に移行した。目釘折れのリスクを減らすためでしょう。衝撃の伝わり方の影響で鍔側にあるほうが目釘は折れにくい。しかし改善はそこで止まる。長い日本刀の歴史においてその程度の変化しかしなかった、とも言うべきか。その効果の程度はわかりかねますが日中戦争では目釘折れが頻発していた。
前近代においては、雑兵にいたるまでどの階層の人間にとっても刀は実用品というよりシンボリックなアイテムだったのでしょうか?
竹目釘一本で刀身と柄を固定するという構造。実用品としては欠陥が大きすぎると思います。改良方法はいくらでもあったはずなのに。
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そんな事を考えていると、昭和期の中国大陸での日本刀の使用例の多さはちょっと異常だと思えてきます。たくさん使ったからこそ改良されて三式軍刀のようなものになったわけですが、裏を返せば歴史的には改良が必要なほど日本刀は使用されてこなかったのかもしれない、、、と考えてしまいます。
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元々が「最強の刀が欲しい」という所からスタートした私の刀剣趣味ですが、色々知るにつれて刀身の出来などよりも柄と目釘の問題の方が圧倒的に重要だと思えてきました。道具として見れば間違いなくそうなのです。鉄より木材のパーツの方が壊れやすいなどというのは当たり前の事なのです。
反面、日本刀をただの道具として見る事がそもそも間違っているという事がよくわかってきました。そして、たぶん私がすごく刀が好きなのは刀がただの道具ではないからなのです。
日本刀がただの道具ではない、、、ほとんどの愛刀家がはじめから知っている事ですね。
反面、ただの道具として見ないと使える刀にはならないという難しさもあり、奥が深いです。
あくまでも伝統に則り、竹目釘一本の構造で使える刀を目指して色々考えるのもまた面白いのかなと思う今日この頃です。
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