戦国時代は革の柄巻きで鮫皮も柄巻きも漆で塗り固めていたそうです。

 

つまり白い鮫皮の上に絹の柄糸を巻いた、現代人が一般的に思い浮かべる刀の柄のイメージは江戸時代以降のものなのです。

 

鮫皮は現在でも黒く漆塗にする事はさほど珍しくありません。

 

私の刀の柄もそうです。

 

 

しかし、革の柄巻きに漆塗りしたものは私は見た事がありません。

 

どういうものかわからなかったのですが、ヤフオクにそれらしい刀がありました。

 

 

↑鮫皮はそのままですが、革の柄巻きに漆を塗っているように見えます。

 

柄巻きに漆を塗るのは防水のためと、補強のためであろうと思われます。

 

日中戦争での記述でも、短冊貼りの鮫皮は濡れるとふやけて剥がれてしまうので防水の必要性があると何かに書かれていました。鮫皮は水に濡れるとふやけて柔らかくなります。だから柄に貼る時には水にふやかして柄に巻いて貼るわけです。当然雨に濡れたり渡河の時に濡れたらふやけます。漆塗りすればそうなりにくいわけです。

 

幕末の学者「窪田清音」は刀装記という書籍に「柄巻きは組み紐が良い。革だと濡れると硬くなってよろしくない」というような事を書いています。そういう意味でも革の柄巻きに漆を塗ったのかもしれません。

 

絹や木綿の組み紐を柄巻きにするのであれば、漆塗りした方が強度も強くなりちぎれにくくなるでしょう。成瀬関次の書籍には軍刀の柄糸が切れ鮫皮が剥がれて柄が壊れてしまい戦死した人の話が出ています。

 

あと、個人的な考えですが汚れた時に洗いやすいようにという理由もあったのではないかと考えます。

 

狩猟で獲った猪の解体に脇差を使った人の話で、「猪の体液が柄について臭くなる」と書かれていたのを見た気がします。

 

人を斬れば当然体液で汚れますから、漆塗にしておく方が水分をはじくぶん汚れにくいし洗いやすそうです。特に組み紐だと紐に体液がしみ込んでしまいます。

 

似たような話は成瀬関次の本にもあって、「激戦をしたという刀の柄をぬくと中からプーンと臭い腐った血液が垂れてくる」というような事が書かれていたと記憶しています。

 

つまり、実戦に使う刀というのは洗いやすくないと雑菌が繁殖して臭くなるし不衛生なのです。

 

不衛生な刀を持った手で握り飯などを食べればもちろん感染性の胃腸炎にもなりかねません。「実戦的」というのはそういう所まで含めて考えるべきかもしれません(私の妄想です)。

 

なお、成瀬関次は革の柄巻きや漆塗りの柄巻きは手が滑るので良くないと書いています。良くないというよりは一長一短と考えるべきかと考えます。

 

・・・・・

 

江戸時代になると公式の場では、刀の柄に漆を塗る事は禁止されたそうです。

 

おそらく物騒だから禁止されたのでしょう。

 

同じく、公式の場では大刀に小柄と笄を着けるようになったのも刀を使い難くするためだと書かれているのを見た事があります。

 
あくまでも公式の場で身に着ける刀の事なので、実際には多くの武士が小柄・笄のない大刀を普段は身に着けていたと思いますし、あまり残っていませんが漆塗の柄の刀を用いる武士もいたのでしょう。このヤフオクの脇差もそういうものなのだと思います。江戸時代の武士は年末に毎年柄糸を巻き替えたりしていたそうなので、古い時代の柄巻きがそのまま残っている事は少ないのだと思います。
 
なお、もし現代において本気で柄のグリップや防水性を気にするのであれば、テニスラケットのグリップ用のラバーを巻くのが最良のようで、実際に武道家の中にはそうしている人もいるそうです。
 
↓多分こういうの
 
 
見た目を気にしない人はこれが最良かとも思うのですが、私は軟弱者で見た目が気になりますのでこれを自分の刀の柄に巻く勇気はないです・・・