「存命刀匠の刀しか使ってはいけない」
SNS上にはこのような謎ルールが存在します。いつ誰が言い始めたのかは不明ですが、鑑賞愛好家とそれに影響された刀剣女子その他などがそのルールを信奉しています。
これに違反している人をみつけるとSNS上で批判して皆で袋叩きにして炎上させます。それが正義だと信じて疑わない人達がたくさんいるのです。いわゆる正義マンですね。
以前はそんな炎上をたまに見かけましたが、最近は炎上するのがわかっているせいか古い刀で試斬をしているという投稿を見かけなくなりました。
はじめてそんな炎上を見たのは数年前、このブログを書きはじめて以降の事なのでまだ数年ほどです。市原長光の刀で竹を切っているおじさんがSNSで動画を上げて炎上していたのを見たのが最初です。
なんと言いますか、長光の刀なんて試斬に使って良い刀の代表みたいなものだと思っていた私は衝撃を受けました。昭和生まれの身としては隔世の感があります。
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「存命刀匠の刀しか使ってはいけない」
たぶん「古い刀を守るため」というのが刀剣鑑賞愛好家の言い分なのだと思います。言いたい事はわからなくはないのですが、他人の持ち物についてその扱いを批判して叩くというのはとても失礼で下品なことであるように感じられてなりません。基本的な事ですが、刀は所有者のものです。どう扱おうと他人がケチをつけて良いものではありません。よほどの事でなければ。
極端な人になると日本刀は美術品だから使ってはいけないという人までいるのですが、試斬はじめ日本刀の武道使用は司法・行政が禁じるものではありません。警察に確認している個人や団体も複数あります。
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「存命刀匠の刀しか使ってはいけない」
現実問題として、この謎ルールに従うのはかなり難しいです。売られている存命刀匠の刀というのは決して多くはありません。単純に探すのが難しいのです。金額の問題もあります。物故刀匠作の現代刀は安い場合が多いです。存命刀匠の刀と比べて江戸時代の新刀・新々刀やそれ以前の末古刀の方が安い場合も多々あります。そして、そんな古くても安い刀がすべて「保護されるべき歴史的価値の高い刀」とまで言えるのかどうかという問題。ここが一番意見がわかれる所だと思うのです。
意見が分かれる事案なのに「全員古い刀を使うな!」は間違っていると思うのです。「自分は存命刀匠の刀しか使わない」であれば良いのですが。
個人的な考えを言うと、「とても使う事が許されないような刀」から「まあ使っても良いんじゃないかな」と思われる刀まで色々あるように思います。その基準が何なのかと問われると明確に答えられません。考え方は各人各様なので、それは所有者によって判断されるべき事だと思います。
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「存命刀匠の刀しか使ってはいけない」
日本刀を守るという上で考えると、この謎ルールには論理的な根拠がありません。日本刀は手作りの一点物なので、同じ刀匠でも全く同じ物を作る事などできません。厳密な意味で「日本刀を守る」などと言い出すと使える刀はゼロになってしまいます。さらに個人的な考えを言うと、新しい刀でも使う事が憚られるような刀も存在するように思います。だから「存命刀匠の作なら使って良い」が正しいとも思えません。
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「存命刀匠の刀しか使ってはいけない」
上述したように、現実問題としてこの謎ルールに従う事は難しいのです。現役刀匠の刀なんてそんなに売られていないし、金額的にも古い刀の方が安い事が多いので。この謎ルールを押し付けてくる人達はどんな人なのか。自分は刀を使わない人達です。だから現実的ではないこの謎ルールを押し付けても自分達は困らないのです。なんなら刀が使われない方が良いとすら思っているかもしれません。
別に私だって刀を使う人間ではないから構わない事でもあるはずなのですが、なんだかすごく不愉快なのです。こういう「自分達は困らないルール」を他人に押し付けてくるような人達の事が。もしこれが刀を使う側の武道家等の人達が自主規制として設けたルールなのであれば、きっと不快には思わないのだと思います。
なんと言いますか、日本人に「クジラ食べるな!」と押し付けてくる外国人とか、「肉を食べるな!」と押し付けてくるヴィーガンなどと同種の不愉快さを感じます。個人的には普段クジラ食べたりもしないけど、お前らにそんな事を言われる筋合いはないわ!って話です。
「自分はクジラを食べない」「自分は肉を食べない」なら何も問題もありません。「お前らも食べるな!」が問題なんですよ。
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「存命刀匠の刀しか使ってはいけない」
この謎ルールに従うなら、市原長光も小林康宏も河野貞光も関住正直もどれも使ってはいけない刀になります。所有者はどう思うでしょうか。これらの刀を買った人の気持ちを考えれば「存命刀匠の刀しか使ってはいけない」なんてとても言い難いと思うのですが。
↑私のこの刀も明日にでも助光刀匠が急死されたら「使ってはいけない刀」になってしまうのでしょうか。謎ルールに従えばそうなります。私は武道もやらないし刀を使う事もないのですが、しかしそれでもとても不本意です。「使わなくても使える刀」をコンセプトにして揃えた刀ですので。まあ強盗でも来たらこれで戦いますが。
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「存命刀匠の刀しか使ってはいけない」
誤解されたくないのですが、私も古い刀は守られて欲しいと思っています。できるだけ良い状態で後世に伝えられて欲しいです。反面、上述したようにこの謎ルールを守るのは武道使用を考えると現実的には難しいのです。だから保護されるべき刀とそうとまでは言えない刀をよく見極めて考えて、そのうえで古い刀は使用して欲しいと思っています。
その基準や考え方などは各人各様であるはずで、明確に線引きできるとは思いません。所有者の責任において判断されるべき事です。何の権利もない「刀剣鑑賞の愛好家」が謎ルールを作って他人に押し付けて良いようなものではないでしょう。
常々思う事なのですが、「愛刀家」と「刀剣鑑賞の愛好家」は別物です。もちろん「愛刀家」であり「刀剣鑑賞の愛好家」である人はたくさんいると思いますが。
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