ラヴェルによる管弦楽作品は特にオーケストラでも人気を博しており、メインプログラムの前に演奏されることも少なくはない。今回取り上げるのはバーンスタインがフランス国立放送管弦楽団とニューヨーク・フィルハーモニックと共に1958〜1975年にかけて録音した作品集となっている。「ボレロ」、「道化師の朝の歌」、「ラ・ヴァルス」や「スペイン狂詩曲」は年代の違う複数録音が収録されているので、聴き比べをすることもできるマニア必見の代物となっている。
[Disc 1]
・ラヴェル:ボレロ
録音:1975年10月1日
バーンスタインが録音した2回目の「ボレロ」。全体的にカッチリとしているが、時よりポップなサウンドが聴こえるようにも思える。特にトランペットを筆頭とする金管楽器や木管楽器の特徴的な音色が功を奏するような仕上がりであることは間違いなく、作品における頂点に向かっていくダイナミクス変化のバランスや一定の安定したテンポ感は非常に聴いていて凄まじいインパクトを聴くことができる。
・道化師の朝の歌
録音:1975年10月1日
演奏における歯切れ良さもそうだが、俊敏な演奏を楽しむことができるようになっている。2回目の録音として収録されている。テンポの緩急からなるダイナミクス変化は非常に明確であり、各楽器が奏でるサウンドは非常に特徴をとらえた明確さも感じ取ることができる。オーケストラ全体の一体感が非常に良いサウンドを奏でている。
・ラ・ヴァルス
録音:1975年10月1日
バーンスタインによる3回目の録音。キレ味とテンポの緩急におけるダイナミクス変化は非常に細かく演奏が行われており、終盤のテンポを落としてからの加速は非常に効果的に描かれている。オーケストラ全体で統一された優美さとメリハリのあるサウンドが特に発揮された演奏である。
・歌曲集「シェエラザード」
録音:1975年9月17日
メゾ・ソプラノとして、マリリン・ホーンが演奏に加わっている。その伸びやかで、美しさ溢れる歌声は聴いている誰しもがうっとりとしてしまう美しさを感じ取ることができる。演奏としては意外にもダイナミック・レンジの幅広さが増しているようで、空間的にも広々としている。それによって各曲ごとにたっぷりと美しい歌声を聴くことができるようになっており、曲によっては濃厚さを強く聴くことができる。
・スペイン狂詩曲
録音:1973年3月6日
バーンスタインによる2回目の「スペイン狂詩曲」の録音。各曲ごとに美しさと輝かしい情景を聴くことができるかのようなサウンドが功を奏する形となっている。「祭り」が特に作品としても美しい音色と響きを展開されており、テンポの緩急からなるダイナミクス変化の細かいバランスや揺らぎなど聴き手を魅了する演奏を聴くことができる。
[Disc 2]
・ボレロ
録音:1958年1月27日
バーンスタインによる1回目の録音。個人的には1回目が好みな要素として多い印象を受けた。というのも、2回目の含めてステレオであることは間違いないが、歴史的な録音としての要素を含みながら演奏を楽しむことができるというポイントが加わるので、聴いていて時代を感じ取ることができる面が多かったのである。特に終盤におけるトランペットをはじめとする金管楽器の音色がどこか苦しく聴こえるかもしれないが、クラシックというよりもジャズ演奏のような音色によって演奏が行われている。それによって、普段聴き慣れた「ボレロ」とは違うアプローチが追加されたかのような凄みを味わえる。ラストに向かって演奏されるダイナミクスの盛り上がりも鳥肌が立つくらいの驚きが味わえる。
・ラ・ヴァルス
録音:1958年1月6日
バーンスタインによる1回目の録音。「ボレロ」と同様に、部分的に金管楽器をはじめとするサウンドがキレ味のある年代を感じさせるような音となっている。若干攻撃的な音に聴こえなくはないため、好みが分かれることになるかもしれない。しかし、11:30あたりにあるテンポが徐々に変化していく瞬間の盛り上がりなどは他の指揮者たちによる同曲録音でも聴くことができないので、度肝を抜かされる演奏であることは間違いない。
・スペイン狂詩曲
録音:1958年1月27日
バーンスタインによる1回目の録音。2回目を聴いた後に1回目を聴いているので、どこか控えめに演奏が聴こえる。しかし、各曲ごとに情景がぴたりと当てはまる瞬間は幾度もあり、特に木管楽器の音色とその技巧は作品との相性も抜群な仕上がりとなっている。1958年録音ではあるが意外にも音質は比較的に良いので、全体像を明確に聴き込むことができる「スペイン狂詩曲」である。
・道化師の朝の歌
録音:1963年9月29日
バーンスタインによる1回目の録音。2回目と比べてみると若干重量感を味わえるようなテンポ設定となっており、弦楽器群による重厚的なサウンドが非常に功を奏する形となっている。「急→緩→急」のシンプルな構成であることによって、各場面が変化する際のダイナミクス変化の盛り上がりや細部にわたって変化していく音楽の流れが非常に素晴らしい。木管楽器と弦楽器が軸になって演奏が行われているが、金管楽器のサウンドも見事にプラスの効果をもたらしている。
・組曲「マ・メール・ロワ」
録音:1965年2月1,16日
音質もそれなりに良くなり、ダイナミック・レンジの幅広さが増したことによって木管楽器や弦楽器による伸びやかで美しい音色が特に効果的なアプローチとして描かれているようになったのがよくわかる。組曲版のため全曲ではないが、細部にわたり細かく聴き込むことができるようになっている。特にダイナミクス変化が盛り上がった瞬間の響きが美しい。「妖精の庭」の終結部における音の広がりが非常に素晴らしい。
・亡き王女のためのパヴァーヌ
録音:1968年2月2日、3月5日
冒頭奏でられるホルンの音色が特に美しく、それ以降も多くの楽器に受け継がれていきながら密度のある演奏を聴くことができる。ダイナミック・レンジの幅広さが増していることによって、壮大なるスケール感をたっぷりと味わいながらオーケストラ全体の美しい世界観を楽しめるのはこの演奏だからこそとも言えるかもしれない。
[Disc 3]
