アバドはイタリア・オペラのみならず、多くのオペラ作品を録音してきた。そのほとんどは名盤として知られており、多くの人々が繰り返し聴いている。今回はベルリン・フィルとのヴェルディ序曲、前奏曲集を取り上げていくが、曲によってはオペラ全曲を録音している作品もいくつか存在している。当盤はそれに繋がるための入門編的な役割もありつつ、アバドとベルリン・フィルによる普段聴くことのできないような勢いの良さが感じられる演奏とも言えるだろう。
・ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲
録音:1996年5月
ヴァイオリンを筆頭とする弦楽器群による柔軟性の高い音の波が非常に素晴らしく、細部にわたって細かく変化していく音の波がうねるように聴き手に対して強い印象を残す。それに合わせて金管楽器の破壊的なインパクト性の強い強靭的な演奏が功を奏する形となっており、それらが一緒に演奏された瞬間の豪快さといったらただただ圧倒される形になるので長大なるベルリン・フィルとアバドの素晴らしさを改めて思い知らされることとなる。
・歌劇「ルイーザ・ミラー」序曲
録音:1996年5月
ベルリン・フィルによる弦楽器群の演奏でここまでキレ味のある音を聴くことができるとまでは思っていなかった。テンポの緩急からなるダイナミクス変化が明確になっているのもそうだが、弦楽器がつくりあげたブレることのない軸としての存在感にはただ圧倒される瞬間が多々ある。まさに序曲としてこのままオペラ本編が聴きたくなるような演奏だ。
・歌劇「ナブッコ」序曲
録音:1996年5月
「緩→急」へと向かう切り替えもそうだが、キレ味の良さと柔軟性の高さを細部にわたって聴くことができる演奏となっている。ベルリン・フィルによる一体感も非常に素晴らしく、テンポが徐々に上がっていく中でも一音一音の明快さがはっきりとしている。打楽器の衝撃も充分に感じられ、聴き終わる頃にはテンションが上がっているのがよくわかる。
・歌劇「アイーダ」より前奏曲
録音:1996年5月
ここまでに聴いてきた序曲と比べると浄化されるような弦楽器の音色と響きからなる演奏が展開されている。伸びやかなヴァイオリンの音色にはどこか神秘的な美しさがあり、空間的な幅広さがあることによって弦楽器群がつくりあげるサウンドがより一層引き立てられているのがよくわかる。ダイナミクス変化によって盛り上がった瞬間の一体感も素晴らしい。
・歌劇「椿姫」より第1幕への前奏曲、第3幕への前奏曲
録音:1996年5月
弦楽器による演奏でキレ味の良さだけではないというのを感じさせてくれる演奏であり、それぞれの前奏曲における緩やかなテンポから奏でられるはかなさや伸びやかなヴァイオリンの音色、テンポの揺らぎから感じ取ることのできるたっぷりと歌い上げられた演奏には驚かされる。
・歌劇「マクベス」よりバレエ音楽
録音:1996年5月
変幻自在なテンポの緩急からなる細かいテンポの切り替えも素晴らしく、弦楽器群が土台となって金管楽器、木管楽器が生き生きとした演奏を奏でている。それに伴うダイナミクス変化も明確であり、パワフルかつ壮大なるスケール感を味わえるだろう。
・歌劇「ドン・カルロ」より第2幕への前奏曲
録音:1996年5月
弦楽器だけでなく、金管楽器や木管楽器の豊かな音色と美しい響きをたっぷり聴くことのできる第2幕への前奏曲。短いながらにその情報量の多さにはうっとりとさせられるものがある。ダイナミック・レンジの幅広さが増しているからこその伸びやかさと卓越されたアンサンブルが聴きごたえ抜群となっているのは間違いない。
・歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲
録音:1996年5月
「緩→急」へとテンポが変化した際の切り替わりも非常に素晴らしく、木管楽器と弦楽器の一体感によって鋭く研ぎ澄まされた感覚というのは功を奏する形として演奏を聞くことができるようになっている。時に伸びやかなスケールを奏でる場面もあり、ベルリン・フィルによる弦楽器を中心とした美しい音色、響きからなる演奏を余すことなく楽しむことのできる演奏だと言えるだろう。


