朝比奈隆は3回ブルックナーの交響曲全集を完成させているが、今回の交響曲全集は2回目のものとなる。今回は通常CD盤となっているが、タワーレコードからはSACDシングルレイヤーが登場するくらいに人気を誇る名盤だ。東京カテドラルライヴを中心に大阪フィル、都響、新日本フィル、日本フィルの4つのオーケストラとのライヴ録音が収録されている。また、ボーナスディスクとして朝比奈隆によるブルックナーの各交響曲を語るCDが付属されている。
・ブルックナー:交響曲第0番
録音:1978年6月5日(ライヴ)
聴く前と聴いた後では大分印象が変わる朝比奈隆&大阪フィルによる交響曲第0番。全楽章共通して整われた演奏となっており、ダイナミック・レンジの幅広さが増しているのも良くわかる。オーケストラ全体におけるダイナミクス変化は明確に演奏されるようになっており、重厚的かつ骨太な弦楽器群の存在感の上に立つ金管楽器群の圧倒的な音圧には鳥肌が立つぐらいの衝撃が感じられる。テンポの緩急も備わっており、晩年でのやや遅めな演奏ではなくストイックさや推進力も感じ取ることのできるエネルギッシュな演奏を聴くことができる。
・交響曲第1番
録音:1983年1月29日(ライヴ)
貴重な日本フィルとのブルックナー録音。若干楽章によっては弦楽器群内でバラつきがみられるものの、オーケストラ全体における音色と響きのバランス調整や統一は申し分ない仕上がりとなっている。非常に濃厚かつ分厚いスケールを感じ取ることができる演奏となっているが、ただ分厚いだけではなく伸びやかに、かつ芯のあるサウンドをきかせてくれる木管楽器にも注目したいところ。金管楽器の演奏には非常に高い安定感があるので聴きごたえも増しているのがよくわかる。
・交響曲第2番
録音:1986年9月11日(ライヴ)
オーケストラ全体で活発なサウンドが展開されており、やや固さも少なからず感じ取ることのできる演奏を聴くことができる。その際は金管楽器、ティンパニを含めてキレ味の鋭さを聴くことができるだろう。特に第3楽章がその傾向にあったと言える。テンポの緩急にも優れた演奏となっており、「急→緩」になった時伸びやかで濃厚さのある美しい音色と響きをたっぷりとしたスケール感によって楽しむことができるようになっている。
・交響曲第3番
録音:1984年7月26日(ライヴ)
多少のバラつきはあるが、全体的に活発でエネルギッシュなアプローチからなる交響曲第3番を聴くことができる。楽章によってはテンポの重さが感じられるような演奏を聴くことができるような面もあるが、特徴的な金管楽器の独特な音色が功を奏する形となっているので後味はスッキリとしていて聴きやすさが残っている。
・交響曲第4番「ロマンティック」
録音:1989年2月17日(ライヴ)
金管楽器のパワフルなサウンドが特に目立った演奏となっている今回の「ロマンティック」。後の最晩年におけるライヴとは違う分厚さはないものの、細部まで細かく奏でられているようなシンプルさが演奏からは聴くことができるようになっている。テンポ設定に関しても基本としては遅さもなく、重々しい演奏でもないので珍しいスタンダードなアプローチからなる演奏というように考えられるかもしれない。
・交響曲第5番
録音:1980年9月3日(ライヴ)
重々しいテンポからなる演奏は基本としてなく、比較的に前向きに感じられるようなアプローチが感じられるような演奏を聴くことができる交響曲第5番。弦楽器の音色や響きからは透明度の高い美しさ溢れる音を聴くことができ、アタックが強すぎることのないまろやかさが都響による演奏からは感じ取ることができるようになっている。より難解さよりも濃厚さが全面的に押し出されている印象が強く、聴きごたえに関してもライヴの臨場感が加わりより密度のあるスケール感を
・交響曲第6番
録音:1984年1月28日(ライヴ)
テンポの緩急が明確になった演奏となっており、演奏としては非常に前向きである。特に第4楽章における勢いの良さは非常に素晴らしく、「緩→急」へと進んでいく流れのストイックさが功を奏している。たっぷりと溜める場面もあり、濃厚な弦楽器による演奏が非常に聴きごたえがある。木管楽器のサウンドは軽やかで弦楽器に関してはまとまりある濃厚な響きをたっぷりと奏でているのが良くわかる。
・交響曲第7番
録音:1983年9月13日(ライヴ)
意外にもあっさりとしている印象で、しつこさを演奏からはあまり感じることのない交響曲第7番の演奏という感覚である。弦楽器群の音色も豊かなスケール感よりも研ぎ澄まされたやや固さすら感じるようなサウンドとなっており、金管楽器もそれに寄った音と言ってもいいだろう。テンポの緩急からなる勢いの良さと推進力を全楽章共通して聴くことができるので、奥深さもよりもブルックナー録音の中でも稀にみる演奏で楽しむことができた。
・交響曲第8番
録音:1983年9月14日(ライヴ)
強烈なインパクトよりも伸びやかさや豊かな音色と響きが重視された演奏となっており、ややテンポの重さが感じられるような交響曲第8番というふうに聴こえなくもない。パワーでゴリ押している感覚もないが、透き通るような美しさからなる音色の良さが細部より余すことなく堪能することができるようになっている。特に弦楽器群がぴたりと当てはまるかのような美しさが感じられるようになっており、神秘的な美しさをたっぷりと聴くことができるライヴだ。
・交響曲第9番
録音:1980年6月4日(ライヴ)
幾分かパワーバランスが不足しているような演奏に聴こえなくもないかもしれないが、重心の低さからなる安定感のある重量級の演奏となっているのは間違いない。ダイナミック・レンジの幅広さがあり、それによる伸びやかなサウンドが透明度の高い音色による響きからなる空間を作り上げているので、たっぷりとしたスケールが弦楽器群を中心として感じられるようになっているのは間違いない。くもりのない、迷いが感じられない純粋な音によって奏でられる交響曲第9番のライヴである。