第1727回「アブラヴァネル&ユタ響によるマーラー交響曲全集」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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 みなさんこんにちは😃本日1月6日は、モーリス・アブラヴァネルの誕生日です。今年で生誕121年となります。そんな本日ご紹介していくのは、アブラヴァネルとユタ交響楽団による代表的な録音の一つであるマーラーの交響曲全集です。この全集自体あまり表に出回らない代物となっているため、コアなファンこそ知る代物という印象が強いかもしれません。バーンスタインやショルティ、テンシュテットらとは一味違うアブラヴァネルのマーラーを堪能していきたいと思います。


「モーリス・アブラヴァネル指揮/ユタ交響楽団」


マーラー作曲:
交響曲第1番 ニ長調「巨人」

交響曲第2番 ハ短調「復活」

交響曲第3番 ニ短調

交響曲第4番 ト長調

交響曲第5番 ハ短調

交響曲第6番 イ短調「悲劇的」

交響曲第7番 ホ短調「夜の歌」

交響曲第8番 変ホ長調「一千人の交響曲」

交響曲第9番 ニ長調

交響曲第10番 嬰ヘ長調よりアダージョ



 アブラヴァネルとユタ響によるマーラーの交響曲全集は、バーンスタインがニューヨーク・フィルハーモニックと完成させた1回目の交響曲全集と同時期である1963〜1974年にかけて録音が行われた。マーラー以外に、シベリウスやブラームス、チャイコフスキーの交響曲全集を完成させており、昨年2023年は生誕120年だったこともあってチャイコフスキーの交響曲CDが復刻されている。今回のマーラーに関しては2011年に発売された代物で、現在は表に出ることのない稀少盤としての立ち位置に属している。


・マーラー:交響曲第1番「巨人」

録音:1974年

・・・バーンスタインやテンシュテットのようなパワー型でもなければ、大きくテンポを遅くして溜めていくような演奏でもないため、意外とあっさりした解釈のように聴くことができるかもしれない。しかし、アブラヴァネルとユタ響の息ぴったりの演奏は素晴らしく、一貫性のあるサウンドと乱れることのないダイナミクス変化が功を奏する形となっているため、聴きやすいといえば聴きやすい。弦楽器群によるしっかりとした土台と、緩やかなスケールがあってこそであると言えるだろう。


・交響曲第2番「復活」

録音:1967年

・・・躍動的であり、テンポの緩急が明確に演奏へと反映されている今回の「復活」。強烈なサウンドや打撃があるわけではないため、明確なダイナミクス変化はないかもしれないが、スマートでスッキリとしていて聴きやすい印象は強い。特にオーケストラ全体のまとまったサウンドは非常に素晴らしく、各楽章ごとに一貫性のある音色と響きを感じ取ることができるようになっているので、聴いていて楽しさを思い出させてくれる面が強い。アブラヴァネルのマーラー交響曲全集自体を最後に聴いたのはもう5年前のこととなるが、再認識に繋がる素晴らしい演奏であったことは間違いない。合唱や歌手が加わるとさらにその世界観は変化する。他の同曲録音で、ここまでに神秘性の強さと美しい世界観は中々聴いたことがない。というよりも類を見ない展開である。この全集の中でも特に気に入った演奏の一つであると述べておきたい。


・交響曲第3番

録音:1969年

・・・今回の交響曲第3番は、ある意味理想的な演奏を聴くことができたようにも思える。オーケストラ含めて歌手や合唱の歌声や楽器の音色は自然的な美しさと透明度の高さがあり、決してパワープレイや熱量の多さだけでは聴くことのできない世界観が展開されていることを聴くだけで理解することができるようになっている。何よりも、金管楽器に音圧的な音色の強さはないため、牧歌的な美しさで奏でられていることもありバランスが取りやすいのだろう。また、普段の演奏では聴くことができないような箇所でテンポが落とされたりと、細かいテンポの緩急による変化も功を奏する形となっているのは間違いない。


・交響曲第4番

録音:1968年

・・・今回の第4番に関しても、第2番と第3番同様に充実していた印象の強い演奏となっているため、アブラヴァネルとユタ響による「角笛交響曲」にはハズレがないということを実感させられる。今回の交響曲第4番は、比較的にスマートなアプローチが全楽章通して共通となっている。テンポの緩急もあるが、激しく変化するような演奏は行っていない。また、後味に関してもスッキリとしている面が強いため、しつこさがなくオーケストラ全体の音色も細部まで明確に聴き込むことができるようになっている。


・交響曲第5番

録音:1974年

・・・非常に安定感のある演奏となっており、近年聴かれるマーラーの交響曲と同じくらいにスタンダードな演奏と言える。自由度はそれほどないものの、テンポの緩急からなるダイナミクス変化の明確さやオーケストラ全体における音色の統一感をこの時代の時点で確立させているアブラヴァネルとユタ響の相性の良さに驚かされる。パワーがあまりない分スッキリとしている面が非常に多いので、綺麗に作り込まれている演奏である認識を強めるとより楽しめると思う。


・交響曲第6番「悲劇的」

録音:1974年

・・・伸びやかで透き通るような音色によって、より一層美しい「悲劇的」を聴くことができるのは間違いないが、演奏上のミスが散見されるのとスケールがあまり感じられない。それが個人的に物足りなかった部分だろうか。しかし、オーケストラ全体における音色の良さは現代におけるマーラー演奏と変わらない水準で聴くことができるようになっているため、この時代におけるマーラー演奏としてはポイントであるとも言えるだろうか。また、第4楽章におけるハンマーだが、遠いため衝撃がうまく伝わってこない。綺麗になりすぎている印象だろうか。


・交響曲第7番「夜の歌」

録音:1964年

・・・安全運転に演奏が進められていくようにも聴こえなくはないかもしれないが、それがあるからこそこの難曲としての姿がより明確かつ簡略化されていて聴きやすさが生まれているのかもしれない。個人的にはもう少し重量感と不気味さがあっても良かった印象だが、この曲の入門や苦手としている人にとっては聴きやすいはず。スッキリとしていてくもりもないので、一度聴いてみて損はないだろう。


・交響曲第8番「一千人の交響曲」

録音:1963年

・・・この時代で「一千人の交響曲」を演奏していること自体非常に貴重と言えることであり、ややコンパクトながら神秘的な音色や歌声、美しい響きを第1部、第2部それぞれで聴くことができるようになっているのは非常に素晴らしいと言える。各楽器が奏でる旋律は非常に軽やかで、しつこさと迷いを感じ取ることのないような仕上がりになっている。そのため非常に聴きやすい透き通るような世界観となっているのだろう。


・交響曲第9番

録音:1969年

・・・交響曲第9番の多くは重々しく、暗めな音色と響きをたっぷりと聴くことができる演奏が多いが、今回の演奏はそうではない。たんたんと演奏が進められていくため、重々しい感覚はなく基本足運びの良い演奏となっている。弦楽器とトランペットやトロンボーンは少々パワー不足のように思えるが、ホルンの圧倒的なサウンドと木管楽器の透き通るような音色には驚かされる部分がある。エネルギッシュで明瞭さが全楽章共通して聴くことができる演奏であることは間違いない。


・交響曲第10番よりアダージョ

録音:1974年

・・・透き通るかのような美しい音色によって奏でられる悲観的な旋律が、絵も言えない美しさを生み出していることもあって、やや前向きな心持ちで演奏を聴くことができるようになっているのは非常に新鮮味のある交響曲第10番だったかもしれない。そのため、トランペットによるAのロングトーンやオーケストラ全体による不協和音もそれほど大きく、重くのしかかるようなことはない。この曲に対して苦手意識がある方はぜひ一度このアダージョを聴いていただきたいところである。


 アブラヴァネルによるマーラーの交響曲全集を聴いたのは5年ぶりだったが、今日までにいろいろなCDを聴いてきたこともあって当時聴いた際とは違う感覚を味わうことができたので、個人的には大分満足している。そして気になるのが、アブラヴァネルとユタ響による他の録音である。一番手に入りやすいのはチャイコフスキーの交響曲かと思われるので、後日購入してまた取り上げることとしたい。アブラヴァネルによるマーラー交響曲全集、バーンスタインらのマーラーに聴き慣れていると物足りなさがあるかもしれないが、普段とは違うスタイルの演奏を聴くことができるのでオススメしておきたい。


https://tower.jp/item/2868676/Mahler:-Symphonies-No-1-No-9,-Adagio-of-No-10