フルトヴェングラーとウィーン・フィルによるブルックナーの交響曲第8番。今回「ウラニアのエロイカ」と6月下旬に同時発売された当盤は、UHQCD仕様の高音質盤となっている。「ウラニアのエロイカ」同様にピッチが高い状態で発売されている中、当盤に関しては修正が行われており、第3楽章におけるテープ問題なども違和感なく聴くことができるようになっている。放送用録音ながらここまで鮮明なフルトヴェングラーによるブルックナーを楽しめるのは中々ないのではないかと思ったりする。
・ブルックナー:交響曲第8番
録音:1944年10月17日(放送用録音)
第1楽章・・・徐々に音楽が進められていく重厚感あふれるテンポで演奏が行われているのだが、その中で細かいダイナミクス変化や大きな盛り上がりを体感できるようになっている。弦楽器の音色はまとまりと芯のある明確な音となっており、金管楽器は強すぎることのない豊かで美しいサウンドを奏でている。オーケストラ全体としても透き通るくらいに透明度の高い演奏を行なっていることもあって第1楽章からフルトヴェングラーによるブルックナーの世界観が大きく展開されているように感じられる。
第2楽章・・・中間部のトリオに関してはゆったりと幅広く伸びやかな演奏となっているが、スケルツォ部分に関しては比較的に前向きでやや早めのテンポで演奏が行われている。そのため、「A→B」や「B→A」といった構成の変化に大きな差が生まれる。それもあってダイナミクス変化も明確なものとなり、テンポの緩急も明確でわかりやすく作り込まれたスケルツォ楽章を聴くことができるようになっている。フルトヴェングラーらしいテンポの巻き返しや壮大なスケールも味わえるので、爽快感を覚える演奏と言えるかもしれない。ノイズも多少あるが、オーケストラにおける各楽器の輪郭を明確に聴き分けることができるのは非常に大きいだろう。
第3楽章・・・程良いテンポで演奏が行われているゆったりと、のんびりとした印象を強く受ける今回の第3楽章。たっぷりと幅広く取られた弦楽器によるスケールも非常に素晴らしく、木管楽器がそれに加わることによってさらに美しい神域が作り出されている。ウィーン・フィルだからこそ奏でることができるこの時代特有のサウンドは非常に聴きごたえがあり、聴いている誰しもが惚れ惚れとしてしまうのは間違いない。大きな慈愛からなる優しさと細かいダイナミクス変化があることによって思わず鳥肌が立ってしまう。ノイズがあったとしてもこの演奏におけるこの第3楽章に関しては申し分ない美しさがあると言えるだろう。
第4楽章・・・大分拡大された中での演奏ながらフルトヴェングラーらしいテンポの加速が随所に隠されていることもあって推進力からなるエネルギーは非常に素晴らしい(例でいえば15:00あたり)。鮮明で美しさの極まった音色を奏でる弦楽器と木管楽器、それとは別に決めどころを逃すことなく圧倒的な音圧でオーケストラ全体を包み込むと同時に、聴き手に大きなインパクトを与えてくれる金管楽器と打楽器による強烈な打撃は非常に素晴らしい。テンポの緩急も細かく行われており、ダイナミクス変化もその度に変化しているため非常に聴きやすいブルックナーとなっているのは間違いない。
フルトヴェングラーによるブルックナーの交響曲第8番は有名な「旧EMI」に残されたベルリン・フィルとの録音をよく聴くが、この1944年放送用録音に関してはあまり聴いていないかもしれない。「キングインターナショナル」から発売された「戦時のフルトヴェングラーⅡ〜ターラ編」のDisc 6にも同じ録音が収録されているが、当盤はまた違うマスタリングが行われているため全く音質が違う。ノイズは多いが、パワーとしても当盤が圧倒的に大きなハンデとなっている。「ターラ編」に関してはまたいずれ取り上げるとして、今回のUHQCDで聴くブルックナーは想像している以上に楽しめる名演だったのは間違いない。
https://tower.jp/item/5755333/ブルックナー:-交響曲第8番