サイトウ・キネンにはじまり、水戸室内管などベートーヴェンの交響曲演奏、録音を盛んに行なっているが、ボストン交響楽団とは交響曲第5番しか録音を残していない。ゼルキンとはピアノ協奏曲全集を完成させており、同じ「テラーク」から発売されている。今回はボストン響との唯一の録音となった交響曲第5番とルドルフ・ゼルキンとのピアノ協奏曲第5番「皇帝」をSACDハイブリッド仕様の高音質盤で聴くことができるようになっているので、非常に貴重と言えるかもしれない。
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
録音:1981年1月
・・・抜群の安定感のある中で演奏されているゼルキンによる「皇帝」。そのピアノから奏でられる音はなんとも言えないくらいに美しく綺麗である。SACDハイブリッド盤となったことに伴うダイナミック・レンジの幅広さが生かされた形となっていることもあって、オーケストラとの演奏も非常にバランス良くつくり込まれている。スタンダードであり、ピリオド楽器や室内楽編成による演奏とも違うためそれほど尖った演奏ではないというのはそれなりに聴きやすい感覚を覚えた。高音質盤であるため、美しいピアノとボストン響のバランスの取れたサウンドは聴くもの全てを圧倒すると言えるだろう。
・交響曲第5番
録音:1981年1月
・・・往年の時代を思い出させるような幅広さとたっぷりとしたスケールを味わえるベートーヴェンである。第1楽章は全体的に伸び伸びとした印象で、冒頭のフェルマータも長めである。ただ伸びきっているわけではなく、弦楽器のサウンドには芯があり、明確に演奏を聴き込むこともできるようになっている。第2楽章では意外にもあっさりと前に前にぐんぐん進んでいく感覚を覚えた。テンポも割とはやくあまり溜めを作らない印象を受けたと同時に、細かいダイナミクス変化も演奏しているので長大なる交響曲の姿を楽しむことができるようになっている。第3楽章は比較的にしっかりとした重心の低さが目立っており、意外にも推進力よりも一音一音における重さが明確なものとなっている。それに加えて歯切れの良さが演奏には展開されているため、普段あまり聴きなれないようなアプローチに思わず驚かされることとなる。第4楽章へクレッシェンドを行いながら盛り上げり、頂点に達した瞬間にはまさに勝利のファンファーレを演奏する形となっている。その後の流れは非常にスムーズな演奏となっており、スタンダードな分聴きやすさに満ち溢れた演奏を聴くことができる。
小澤さんのベートーヴェンはサイトウ・キネンの全集含めてそれほど聴いていないため、今回のボストン響との演奏を聴けてよかった気がしている。当盤自体それほど手に入りやすい代物ではないのだが、SACDハイブリッド仕様の高音質盤で聴くことができる恩恵は非常に大きなものがあると言える。ピアノ協奏曲、交響曲それぞれの第5番で同時に収録されたこの豪華な演奏は中々ないのではないかと聴いていて思った。
https://tower.jp/item/998986/ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番≪皇帝≫-交響曲第5番≪運命≫