「旧EMI」に数多くの録音を残したアルバン・ベルク四重奏団。その録音の中でもベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集は日本でもレコード・アカデミー章特別部門受賞など高い評価を得ている。今回の録音はその全集の中から最初の録音である「中期弦楽四重奏曲集」が世界初SACD化された。
・ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第7番「ラズモフスキー第1番」
録音:1979年4月
・・・ロシアのウィーン大使だったアンドレイ・ラズモフスキー伯爵から作曲の依頼され、ラズモフスキー伯爵へ献呈された3曲から「ラズモフスキー四重奏曲」という名前で親しまれている。第7番はその中でも1曲目にあたる曲である。演奏として、アルバン・ベルク四重奏団が活動していた中期にあたる録音ということもあって緩急に優れた演奏であり、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロそれぞれの良さを存分に味わえるようになっていると言っても良いくらいに個性的な印象を強く受けた演奏だった。元から音質も大分良かったという記載もあるが、2021年最新マスタリングが施されたSACDハイブリッド盤ということもあって細部まで細かく聴き込むことができる。交響曲とは違う独創性と筋肉質であり豊かなサウンドかつ引き締められた弦楽器の音色が非常に素晴らしい。
・弦楽四重奏曲第8番「ラズモフスキー第2番」
録音:1979年6月
・・・ロシア民謡も採用されていることも注目の一つであるが、何よりも交響曲と言われても疑わないくらいの長大な作品となっている「ラズモフスキー第2番」。第2楽章は緩徐楽章、第3楽章はスケルツォ、第4楽章はロンド・ソナタ形式となっている。また、第3楽章に関してはムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ、チャイコフスキー、ラフマニノフらが自身の曲に引用している。これはロシア民謡の旋律が使われいてることが大きい。推進力や機動力に満ち溢れた演奏で、ダイナミック・レンジの幅広さが増していることもあって弦楽四重奏という枠を超えた素晴らしい豪快さと長大さが演奏から感じ取ることができる。特にヴァイオリンの存在感は決定的であり、チェロの支える役割も重要なものということは聴いているだけでよくわかるだろう。
・弦楽四重奏曲第9番「ラズモフスキー第3番」
録音:1978年8月
・・・以前取り上げたエソテリック盤にも「ラズモフスキー第3番」と第11番「セリオーソ」が収録されていたが、今回の録音とは別のライヴ録音となっている。「ラズモフスキー四重奏曲」最後を締めくくる曲となっている第9番「ラズモフスキー第3番」。交響曲第7番を聴いているかのようなユーモアやキャッチーな旋律もありつつ、筋肉質で躍動感溢れる演奏を聴くことができる。第4楽章に関しては2021年最新マスタリングが施されたダイナミック・レンジの幅広さもあるため、非常に素晴らしい音響となっているのは間違いない。楽章が進むごとにアルバン・ ベルク四重奏団のテンションも上がっていることが演奏からよくわかるので、後のライヴとは一味も二味も違うので非常に楽しめる演奏だった。
・弦楽四重奏曲第10番「ハープ」
録音:1978年7月
・・・第1楽章のピツィカートの動機から「ハープ」という愛称を持つ第10番。「ラズモフスキー四重奏曲」と比べると伸びやかで、交響曲のような姿ではないとしてもロマン的な美しさと親しみやすい広々とした構成が緊迫感とはまた違う良さを引き出している。演奏として筋肉質や躍動感は多少薄まった気はするものの、統一感とバランスの良さは変わることなく演奏されている印象を受けるため素朴ながら聴いているだけで心から穏やかな気持ちになることができる美しい姿を楽しむことができるようになっている。
・弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」
録音:1979年1月、4月
・・・この曲も前回取り上げたエソテリック盤で後のライヴ録音が収録されていた曲の一つである。「セリオーソ」はベートーヴェン自身が付けた名前である。各楽章それほど演奏時間が長い状態で作り込まれているわけではなく、短い音楽の中で無駄を省いたかのような構成となっている。そのため進行ははやいため比較的に聴きやすい印象を強く受ける。演奏として常に張り詰めた空気感があり、濃厚さは薄いものの、より筋肉質で抜群のキレ味を誇る美しい名演が展開されている。ダイナミック・レンジの幅広さが増しているため、その統一されたサウンドもありながら豪快さと瞬発力は非常に功を奏する形となっている。
アルバン・ベルク四重奏団のベートーヴェン弦楽四重奏曲全集はいずれ聴いてみたい演奏の一つであることは間違いない。近いうちにアルバン・ベルク四重奏団が「旧EMI」に残した全集を購入したいと思う。あわよくばタワーレコード企画の同シリーズあたりでSACDハイブリッド盤が出てくれると非常にありがたいのだが、難しいと思うので希望くらいの考えにしておきたいと思う。
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