第1316回「ヨーゼフ・クリップスの芸術1956〜1965年:Disc 5〜10」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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 みなさんこんにちは😃本日は定期的に取り上げている「ヨーゼフ・クリップスの芸術 1956〜1965年」をみていきます。今回はDisc 5〜10に収録されたベートーヴェンの交響曲と序曲を一気に取り上げていきたいと思います。序曲はウィーン祝祭管弦楽団、交響曲はロンドン交響楽団との録音となっています。


〜ヨーゼフ・クリップスの芸術 1956〜1965年:Disc 5〜10〜


[Disc 5]
「ヨーゼフ・クリップス指揮/ウィーン祝祭管弦楽団」

ベートーヴェン作曲:
「フィデリオ」序曲 作品72

「エグモント」序曲 作品84

「コリオラン」序曲 作品62

「レオノーレ」序曲第3番 作品72a

「献堂式」序曲 作品124


[Disc 6〜10]
「ヨーゼフ・クリップス指揮/ロンドン交響楽団」

ベートーヴェン作曲:
交響曲第1番 ハ長調作品21

交響曲第2番 ニ長調作品36

交響曲第3番 変ホ長調作品55「英雄」

交響曲第4番 変ロ長調作品60

交響曲第5番 ハ短調作品67

交響曲第6番 ヘ長調作品68「田園」

交響曲第7番 イ長調作品92

交響曲第8番 ヘ長調作品93

交響曲第9番 ニ短調作品125「合唱付き」

「エグモント」序曲 作品84



 ベートーヴェンの交響曲全集を世界で初めて完成させたフェリックス・ワインガルトナーに師事していたクリップス。オペラ指揮者として活躍し、モーツァルトやシューベルトなどを得意としたクリップスによるベートーヴェンの交響曲全集を今回聴くことができる。交響曲はロンドン交響楽団、序曲はウィーン祝祭管弦楽団とそれぞれ録音をしている(一部の曲はロンドン交響楽団とも録音している。)。いずれもクリップスによって美しいサウンドが全面的に押し出された演奏と言えるだろう。


 ベートーヴェン:「フィデリオ」序曲 1962年録音

・・・若干ノイズがありつつ歴史的録音という感覚を感じることができる。演奏はやや重心低めの状態で固めのサウンドが仕上がっている。弦楽器群によるしっかりとした安定感のある土台と共に演奏されていることもあって木管楽器や金管楽器のサウンドにもメリハリがあり、より活気ある幕開けをしていると言えるだろう。


 「エグモント」序曲(ウィーン祝祭管)1962年録音

・・・ロンドン響も「エグモント」は1960年に録音しているが、今回はその2年後にあたる録音である。ややテンポに重みがあることによる安定感が加わり、金管楽器の発音もロンドン響と比べて比較的明瞭なサウンドになっている。分厚くまとまった弦楽器が特徴的でオーケストラ全体の土台として大きな基盤を作り上げていると言えるだろう。


 「コリオラン」序曲 1962年録音

・・・残響があまりない「カラッ」としたデッドな空間となっている。その中で鋭さが極まった弦楽器とキレ味と発音の強い金管楽器が全体を制圧している印象。ティンパニの打撃も中々なものとなっているためインパクトある演奏であることは間違いない。特に冒頭のトゥッティをはじめとして細かいダイナミクス変化からなる豪快なサウンドは大きな衝撃を与えてくれるようになっている。


 「レオノーレ」序曲第3番 1962年録音

・・・「コリオラン」と同じく残響はほとんどない各楽器の音がダイレクトに流れ込んでくる演奏となっている。しかしそれほど悪いというわけではなく、音形は明確になっている上にダイナミクス変化やテンポの緩急は比較的わかりやすいように作り込まれている印象を受ける。特に曲が盛り上がった瞬間の豪快さや追い込みに関してはインパクトのある演奏となっており、畳み掛けるような終わり方もまさに圧巻の終わりと言えるだろう。


 「献堂式」序曲 1962年録音

・・・荘厳的であり、より固めのサウンドで厳格に演奏がされている「献堂式」。細かいダイナミクス変化はもちろんのことオーケストラ全体の一貫性は非常に素晴らしいもので、弦楽器をはじめとして各楽器の魅力を余すことなく味わうことができるようになっている。


 ベートーヴェン:交響曲第1番 1960年1月録音

・・・1960年のステレオ録音にしては非常に音質が良い仕様となっている。そのため現代における録音にも引けを取らない演奏と言えるだろう。アプローチは尖った印象もなく、至ってシンプルでスタンダードな印象が強い。オーケストラ全体上手くまとめられており後味もスッキリとしているため各楽器ごとに美しい音色や響きを奏でている。特に弦楽器と木管楽器のサウンドには重々しい雰囲気もなく自然と馴染めるようになっている。


 交響曲第2番 1960年1月録音

・・・今回の交響曲の中でも特に印象強く残った演奏となった第2番。俊敏さがあり、推進力に満ち溢れた名演である。また、弦楽器や木管楽器の一体感もあるためオーケストラ全体からは一貫性のあるサウンドを楽しむことができるようになっている。第1楽章の一部分に揺らぎがあるがそれ以外は素晴らしい演奏で、清々しさや爽快感を感じるようなスッキリとした第2番となっている。


 交響曲第3番「英雄」1960年1月録音

・・・今回の演奏では楽器の音色を上手く生かしながら美しい音色と響きを奏でている。近年ピリオド楽器や室内楽編成での筋肉質で引き締まった演奏が多くなったが、それとは真逆で壮大なスケールとともにやや速いくらいのテンポで演奏される。リマスターの影響もあるのかダイナミック・レンジの幅広さもあるため、近年の録音に負けないくらいの音質の良さを誇っている。それもあって細部までじっくりと聴き込むことができるのは非常に良い仕様と言えるだろう。


 交響曲第4番 1960年1月録音

・・・今回の第4番は少々引き締められたテンポの緩急が明確になっている。統一された弦楽器のスケールはもちろんのこと、俊敏さも非常に素晴らしい。金管楽器の存在感は他の交響曲と同じように主張はやや薄い印象だ。対して木管楽器は歯切れ良さであったり弦楽器との音色の相性が非常に良く、明るいサウンドが功を奏している。音質はダイナミック・レンジの幅広さもあるため細部まで細かく聴き込むことができるが、多少ノイズがあったり揺らぎが一部分で確認できるようになっているのでそれがなければ良いかなと思うくらいである。


 交響曲第5番 1960年1月録音

・・・冒頭の「運命の動機」からなるフェルマータはピリオド楽器や室内楽編成での演奏と同じくらいに短く演奏されているが、オーケストラ全体としての音形は固めな印象というよりも往年の時代における伸び伸びとした美麗な音色をきかせながら演奏が進行していく。特に弦楽器群のまとまり具合が非常に良く、盛り上がったときのダイナミクス変化や細かい溜めなどの効果はより絶大なものと言えるだろう。強いて言えば金管楽器の音圧はやや薄く感じてしまう印象だろうか。


 交響曲第6番「田園」1960年1月録音

・・・今回音質が良いことによるダイナミック・レンジの幅広さが功を奏している中でその恩恵を大きく受けた演奏なのではないかと聴いていて感じた。美しく自然的な情景が連想できるこの曲においてベストな音色や響き、ダイナミクス、テンポ運びが行われているということもあって聴いていて心が安らぐようだった。なんといっても弦楽器の壮大なスケールに対して軽快であり牧歌的な木管楽器の音色も素晴らしい。


 交響曲第7番 1960年1月録音

・・・ベートーヴェンの交響曲の中でもポピュラーな作品の一つである第7番。今回の演奏では弦楽器と木管楽器の美しい音色が冴え渡っていて重さもなく、軽快で最初から最後まで聴きやすさを感じた。オーケストラ全体としても明瞭さがあり、尖りきったサウンドではないにしても透明感の高さはこれまで聴いてきた同曲録音の中でもトップクラスなのではないかと思われる。音質も非常に良くとても1960年の演奏とは思えないくらいの鮮明さがあると言えるだろう。


 交響曲第8番 1960年1月録音

・・・シンプルであり煌びやかな印象が強いロンドン響の木管楽器と弦楽器によって先導される推進力のある演奏である。演奏時間も短いため気づいた時にはすぐに終わりを迎えてしまうような感覚を覚えたので何回か繰り返して聴いた。金管楽器のサウンドはやや遠いままではあるが、オーケストラ全体としてのバランスは非常に良い状態となっている。後味もスッキリとしているため聴きやすい第8番であることは間違いないだろう。


 交響曲第9番「合唱付き」1960年1月録音

・・・良い意味でうまくまとまっているという印象が強い今回の「第九」。全体的に綺麗な音色や響きが軸としてあるためそれほど重々しい空気や強烈なダイナミクスを連想させるようなものはない。過去にこれほどまでうまくまとめられた演奏は聴いたことがないようにも思える。しかし、第4楽章での歌手や合唱が加わった瞬間は晴れ晴れしさや壮大なスケールで描かれている。


 「エグモント」序曲(ロンドン響)1960年1月録音

・・・先ほどの1962年に録音したウィーン祝祭管の演奏よりも前に録音されたロンドン響との「エグモント」である。ロンドン響とのベートーヴェン録音の中でも特に金管楽器が目立っているのではないかと思うくらいの存在感を強く感じた演奏と言えるだろう。特に「緩→急」の切り替えやダイナミクス変化、音形の変化なども全て明確で素晴らしい。終結部の金管楽器の咆哮は中々素晴らしいもので、発音が少々気になるかもしれないが生き生きとした活気のあるサウンドであることは間違いない。


 さて、今回一気に聴き進めたことによって「ヨーゼフ・クリップスの芸術1956〜1965年」も残すところCD4枚となり聴き終わるところまで来ている。2枚ずつ取り上げようと考えているのでもう少しで終わる予定だが、最後まで楽しんでいくと同時に全て聴き終えたらまた一部で気になった曲を聴き直したいと思う。


https://tower.jp/item/5260725/ヨーゼフ・クリップスの芸術~ステレオ・レコーディングス1956~1965年