リヒテルが旧EMIに残したピアノ協奏曲は一部すでにSACDハイブリッド盤となって発売されているが、今回2021年最新マスタリングが施された状態でここに復刻した。すでにドイツ・グラモフォンで録音されたピアノ協奏曲集もタワーレコード企画の別シリーズにてSACDハイブリッド盤が発売されているが、今回の旧EMIのピアノ協奏曲集も中々に聴きごたえのある曲ばかりと言えるだろう。一曲ずつじっくりと味わいたいと思う。
[Disc 1]
ブラームス:ピアノ協奏曲第2番、1969年10月28〜31日、11月3日録音。4楽章からなる交響曲のように長大かつ大きな存在感を演奏から感じ取ることができるだろう。リヒテルのピアノもそうだが、マゼール率いるパリ管弦楽団の音色との混ざり具合が非常に良く、全ての楽章において非常に深みを味わうことができる。若干ノイズがあるかもしれないが、ダイナミック・レンジの幅広さによるこのシリーズ特有の柔らかく、決して攻撃的な音にならないマスタリングの甲斐もあって普段聴き慣れたブラームスの交響曲のような存在感と親しみを楽しめるだろう。
バルトーク:ピアノ協奏曲第2番、1969年10月24〜28日録音。若干演奏にバラつきがあるものの、打楽器的な強打寄りのアーティキレーションやアプローチによってバルトークのピアノ協奏曲第2番が非常にベストな形で楽しめるようになっている。SACDハイブリッド盤で発売されたことによる2021年最新マスタリングが施された当盤のダイナミック・レンジの幅広さが功を奏しており、細部まで細かく聴き込むことができる上にリヒテルとマゼール率いるパリ管弦楽団のサウンドが意外にも統一されているようにも感じられる。この名曲を高音質盤で聴くことができ非常に満足している。
[Disc 2]
グリーグ:ピアノ協奏曲、1974年11月24〜30日録音。この後に収録されているシューマンのピアノ協奏曲とは大抵セットで収録されることが多いグリーグのピアノ協奏曲。安定感のあるドライブで進んでいく演奏となっており、音の輪郭がよりはっきりとした形となっているため非常に聴きやすく、スマートな演奏となっているように思えた。同時に2021年最新マスタリングの効果によって若干余裕が生まれており、聴きやすさがより一層増している。リヒテルの豪快なピアノとオーケストラのサウンドもマッチしているので聴き手としては盛り上がる演奏となっている。
シューマン:ピアノ協奏曲、1974年11月24〜30日録音。先ほどのグリーグのピアノ協奏曲に少なからず影響を与えたといってもいい名曲であるシューマンのピアノ協奏曲。特に第1楽章に関しては「ウルトラセブン」の最終回にBGMとしてこの曲は使用されている。その時の演奏はリパッティとカラヤン、フィルハーモニア管によるものということは多くの人々が知っていることだと思う。今回の演奏は先ほどのグリーグのピアノ協奏曲と同様に明確なタッチながらスマートで、しつこさがなくあっさりとしているため非常に聴きやすい演奏となっている。金管楽器に少々癖を感じるかもしれないが、リヒテルのピアノとマタチッチ率いるモンテカルロ国立歌劇場管のサウンドの混ざり具合が非常に良いのも聴きどころと言えるだろう。
[Disc 3]
ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲、1976年6月18〜21日録音。カルロス・クライバーによる指揮、リヒテルによるピアノ独奏という2大スター夢の共演と言わんばかりの豪華な録音となっているドヴォルザークのピアノ協奏曲、クライバーにとっても唯一の協奏曲録音となっていることもあって当時話題を呼んだ。今ではあまり注目されることも少なくなったかもしれないが、この曲における演奏機会の少ない原典版を聴くことができる貴重な録音となっている。残響はやや多めの印象で、クライバー率いるバイエルン国立管からは鋭く研ぎ澄まされたサウンドを聴くことができるようになっている。リヒテルのピアノがやや控えめに感じなくもないが、残響も多くこれまで聴いてきた他のピアノ協奏曲とは違う独特な雰囲気を演奏から感じ取ることができるだろう。
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第5番、1970年6月16〜17日録音。プロコフィエフが作曲した最後のピアノ協奏曲となったこの曲。初演はプロコフィエフのピアノとフルトヴェングラー率いるベルリン・フィルによって行われている。構成は5楽章からなる協奏曲となっており、他の協奏曲とはまた違うスタイルがとられている。演奏として、リヒテルのピアノが前面に押し出された豪快な演奏となっていてオーケストラのダークな音色がこの曲をより引き立てている。ダイナミック・レンジの幅広さによって細部まで細かく聴き込める上に、曲全体のサウンドも統一されているのでこの曲を初めて聴く場合でも最初から最後まで楽しめるようになっている。
[Disc 4]
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番、1977年9月19〜20日録音。ベートーヴェンのピアノ協奏曲の中でも第5番「皇帝」に次ぐ形で有名かつ人気の高い協奏曲といってもいいくらいの曲で、楽章が進んでいくにつれてリヒテルのピアノとオーケストラの混ざり具合がより増していく印象を受ける。ダイナミック・レンジの幅広さによってパワフルさよりも重厚的で濃厚なまるで交響曲を聴いているかのような大きな存在感を演奏から感じ取ることができるようになっている。このシリーズ特有の深みある豊かなマスタリングが功を奏している形となっているので、多くの人々にとっても聴きやすい第3番と言えるだろう。
モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番、1979年4月5〜6日録音。ピアノ協奏曲第23番とセットで書かれた協奏曲となっている。オーボエが編成になく、代わりにクラリネットが起用されているのも面白い点となっているが、演奏も中々に新鮮なものだったと聴き終えた今は感じている。近年のような古楽編成のスタイルとは違うものの、リヒテルによるピアノがよりわかりやすい輪郭を捉えやすくなっているのに加えてオーケストラもやや引き締まったサウンドとなっている。ダイナミック・レンジの幅広さによってシンプルながらダイナミクス変化もよりわかりやすい形がとられているので聴きやすい演奏となっている。
リヒテルによる旧EMIに残されたピアノ協奏曲集をみてきたが、すでに発売されているSACDハイブリッド盤と比べても今回の「Definition SACD Series」の深みある2021年最新マスタリングが施されたSACDハイブリッド盤を4枚にわたって存分に堪能することができたので非常に満足している。今後としてはリヒテルのピアノ曲録音をまだほとんど聴けていないので、それらを聴いてみたいと思う。
https://tower.jp/item/5219989/スヴャトスラフ・リヒテル-ピアノ協奏曲集-(1969-79年録音%E3%80%82旧EMI音源8曲)<タワーレコード限定>
