バルトークを知るきっかけとなったのはいうまでもなく、今回収録されている「中国の不思議な役人」である。高校1年時に吹奏楽コンクール自由曲で演奏することとなり、このグロテスクであり強烈な世界観に衝撃を受け、以降毎年一度は必ず聴いていると言っても過言ではないくらいに好きな作品となった。今回のジャケット、作中において役人が青みがかった緑色に輝いた瞬間の姿と、死ぬ瞬間に血を流した姿を連想させる。
・バルトーク:バレエ音楽「かかし王子」
録音:2017年5月
ドビュッシーやリヒャルト・シュトラウス、ワーグナーなどの影響を受けているとの記述を見たが、確かにその片鱗を演奏から通して楽しむことができたと考えることのできる世界観だった。幻想的であり、ユーモアたっぷりの演奏で時よりストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」や「火の鳥」を思い出させるような音色、響きを聴くことができ、この後に収録されている「中国の不思議な役人」をより聴きやすくしたような印象も受けなくはない。テンポの緩急からなるダイナミクス変化も明確であり、細部まで細かく聴き込むことができるようになっている分非常に面白い。今回「かかし王子」に関しては初めて聴いたが、最初から最後まで余すことなく楽しめるユーモアたっぷりな演奏だったのは間違いない。
・バルトーク:バレエ組曲「中国の不思議な役人」
録音:2018年2月
組曲版よりも全曲版を好んで聴く私だが、今回の演奏には思わず度肝を抜かされた。テンポの緩急は激しく展開されており、非常に躍動感ある演奏である。弦楽器のストイックな音色、響きからなる強烈なサウンドはさながら「春の祭典」を連想させるような破壊的なサウンドである。ダイナミック・レンジの幅広さが功を奏する形となっていることによって、これまでに聴いたことがないようなほどに細部まで細かく聴き込むことができるようになっているのは非常に素晴らしいポイントと言える。特に終結部におけるテンポの加速は、これまでに聴いたことがないほどの瞬発力であり、鳥肌が立つくらいに度肝を抜かされた。
個人的な話、「中国の不思議な役人」を知ったのは組曲版がきっかけであるが、今はほとんど全曲版を聴くことが多い。そのため、組曲版における個人的な決定盤を決めかねていたのだが、今回の演奏が一番しっかりときた。この躍動感と強烈なインパクトを感じるグロテスクな演奏、一度ぜひ聴いていただきたい。そして、「かかし王子」に関しても、初めて聴いたが、面白い世界観と「中国の不思議な役人」と比べても聴きやすい作品であったことは間違いないだろう。
