今回、ご紹介させて頂く書籍は『図説 鎌倉歴史散歩』佐藤和彦・西木照枝編 河出書房新社より2000年3月15日新装版発行 本体価格1600円。その後、残念だが重版未定であり、Amazonで中古本が検索できる。
この本に私が出会ったのは丁度十数年前、出張の帰り鎌倉で散策した合間に書店で見つけた。この本は鎌倉の歴史、寺社仏閣、鎌倉時代の人物など多くを凝縮させながら、わかりやすく説明されている。この頃、歴史好きな私であったが、大阪に住んでいた私はどうしても古代・平安期の物が身近にあり、鎌倉期に身を踏み込んでいなかった。しかし、この書籍は、鎌倉と鎌倉時代を分かりやすく、図説や貴重な写真を多く用い、不明な点があれば専門書で調べたりした。おかげで鎌倉期について非常に興味を持ち、定年後単身鎌倉に居住して勉強するきっかけになった書籍である。
河出書房新社がこの本の内容について、「初めて東国に出現した幕府の都。もっとも輝いていた時代の幕府を、都市を作り、政治と防衛、中国文化の導入、新仏教と民衆、墓と貿易などテーマに即して散歩する画期的なガイドブック」と書かれている。しかし、この書籍はガイドブックを超え、鎌倉に居住し、鎌倉を愛し、鎌倉の平安期、鎌倉期から現在まで歴史、重要な遺跡・遺構、寺社仏閣を知る方が編著された事が、内容に多く窺える。書籍の各項について著作されている方々も研究者や教壇に立たれている方で、わかりやすく学術的に基づいた記述がなされている。そして用いられている写真や貴重な資料がカラーで美しい。鎌倉を知る上で入門書として教科書として最適な書籍である。
この書籍の始めに永井路子さんのが「歴史の町、鎌倉」と題して書かれている。「愛も憎しみも執念も、鎌倉の歴史のドラマは、全て土の中に埋もれている。古都鎌倉と呼ばれているが鎌倉の文化遺産は良く知られている大仏のほかは数えるばかり…。十四世紀の半ば近く、鎌倉幕府が滅亡する折の兵火で、ありし日の姿はほとんど消え失せてしまった。私はかってそんな鎌倉を「幻の鎌倉」と呼んだことがある。…鎌倉の四季は美しく、花だよりは人々の目を引き付けるが、ここはそれ以上の魅力を持つ歴史の町なのだ」。
(写真:「図説 鎌倉歴史散歩」から引用。上段、鶴岡八幡宮と若宮大路、建長寺の柏槇。下段、秋の妙本寺、雪の円覚寺)
編者は佐藤和彦1937年生まれ東京学芸大学名誉教授。著書『図説 太平記の時代』『太平記絵巻』『南北朝内乱史論』他。
錦秋絵1955年生まれ。東京学芸大学大学院修士課程修了。文学博士鎌倉女学院中学・高等学校校校長。長著書に『刀禰と中世村落(校倉書房)、共著に『図説北条時宗の時代』『図説鎌倉歴史散歩』等。
(書籍裏表紙:歌川広重 東海道之内相州鎌倉鶴ヶ丘)