この歌舞伎の題目の裏表先代萩の裏表とは、大名家の場面と庶民の場面が交互に出てくるということです。この場は庶民のお裁きで裏に相当します。山名宗全は陰謀派なので、乳人正岡の姪のお竹を犯人に仕立てようとします。そこに細川勝元が証拠を持って小助が犯人であることを明らかにします。AIによると、お竹が濡れ衣を着せられて自害するバージョンもあるらしいです。今回観たバージョンが、ここで書いた通り爽快な結末となりました。悲惨な結末よりこういう方が良いですね。

 今回座った桟敷席は前日に取ることができたことをすでに書きました。その時2席空いていました。いつも座るやや後ろの方と、前から3番目の所でした。今回は、すっぽんの良く見えるところですっぽんを観察したいと、前から3番目のところをとりました。すっぽんと言うのは、花道の前の方にある昇降する台です。床下から役者がせりあがるとき、すっぽんが首を出すようだということで名づけられたそうです。すっぽんを使った場面は床下の場で二木弾正が連判状を奪って御殿の床下に潜り、男の助と争って鉄扇で額を割られた後です。ねずみ姿ですっぽんから一旦消えた後、二木弾正の姿に戻ってせりあがってきました。ここで見得を切る場面でした。このすっぽんは妖怪や化物など妖しい者が出入りするのに使われるそうです。前から3番目の桟敷席から見下ろすようにしっかりと観ることができました。

 歌舞伎座四月の大歌舞伎の桟敷席はすでに書いた通り、前日にも予約できました。しかし、5月分について調べてみると全く空きがありませんでした。襲名披露があるからでしょうか。ただ、今日調べてみると2か所だけ空きが見つかりました。劇場側で特別な会員用に、最初はブロックして需要がないことが分かった時点で開放するのかもしれません。今後の空き状況を観察していきたいと思います。

 ねずみに化けた二木弾正が連判状を正岡から奪い床下に隠れると、そこには男之助がいました。陰謀派におとしめられ失職しひそかに床下から幼君を見守っていたのです。鉄扇でねずみの二木弾正の額を打ち傷つけます。それでも二木弾正は連判状をもったまま逃げ切ります。この場もストーリーとしては不要な場だったと思います。2人の戦いが見せ場だったということだけのようです。

 魯山人のドラマを偶然に同時期に観た話をすでにしました。これと同様偶然に、落語で先代萩のことを聴きました。文化放送の志の輔ラジオ落語DEデートで録音した8代目雷門助六の七段目の落語でした。まくらで、歌舞伎好きの男が犬を先代萩の男之助のように踏みつけてみえを切りますが、犬が吠えます。男は「芝居心のない犬だ!」と言い切ったという話です。

 こちらは時期が重なった話ではありませんが、落語「将棋の殿様」の“てっせん”を思い出しました。今回の歌舞伎では男之助が持っていました。落語では殿様が都合が良いようにルールを変えて家来と将棋をして、負けた家来の頭を“てっせん”を打ち付けます。この落語を聴いていて“鉄線”かとも思いましたが、鉄扇だろうと理解するようななっていました。実際この歌舞伎で鉄扇がでてきました。実戦にも使える扇のようです。

 お家乗っ取りを謀る仲間が管領一行として毒の入った菓子を見舞と称して幼君に食べさせようとします。幼君が食べなければならなくような状況になったとき、乳人正岡の子が食べてしまいます。幼君に食べさせなくする忠心からだったのです。毒薬で苦しみだしますが、一行の中の八汐がそれをごまかすために不届きものとして短刀で殺してしまいます。八汐は正岡が取り乱さなかったのを見て、「お前も仲間だったのか」と連判状を渡します。実はこれは図り事で、正岡の本当の様子を確認するための芝居でした。八汐が見えなくなったところで正岡は嘆き悲しみます。それをそっとうかがっていた八汐は正岡を襲いますが、逆に殺されてしまいます。正岡としては息子の敵討ちができたのです。その際、大きなねずみに化けた二木弾正が連判状を奪って床下へと隠れます。幼君側としては敵の全容が分かるところでしたが、また奪われてしまいました。

 幼君鶴千代は毒殺の危機に瀕していました。乳人正岡はそれを防ぐため出された膳を食べさせないようにしていました。息子千松は毒見係としてともにいました。鶴千代と千松はおなかが空いてたまりません。正岡は、その場にあった茶の道具を使ってご飯を炊こうとしていました。そこに、管領がお見舞いと称して毒入り菓子を食べさせに来るのです。

 NHKドラマ10の「魯山人のかまど」で魯山人がロックフェラーをもてなすのに、茶の道具を用いてご飯を炊いて差し出す場面がありました(ドラマではありますが、史実に基づいた出来事だったのかも知れません)。偶然にも、この歌舞伎を観た後でそのドラマを観ました(ビデオだったので放映は先でしたが)。この歌舞伎は昔から何べんも上演されていると思います。もしかしたら魯山人がこの歌舞伎(もちろん今回の歌舞伎ではなく)を観ていて自分の料理のヒントにしたのかも知れません。

 一幕第2場からいよいよ本題に入ってきました。お竹は父親のために医者の道益に借金をしようとしますが、道益の下男、小助のたくらみの下、借用証書を書かされます。道益が足利の幼君の毒殺の薬を用意する見返りとして200両を受け取ったのを小助は見ており殺害して奪い、お竹を犯人に仕立てようとたくらんでいたのです。そして道益は小助に殺されます。200両のうち2両をお竹に渡し、残りは殺害の際に破られた、血の付いた袂の布に包んで縁の下に隠します。これより前の場面で犬が草履を床下に隠して困るというシーンがありました。これが伏線なのでしょう。198両は犬が咥えて、お竹に無心に来た父親の花の売り篭の中に持って行ってしまいます。この犬(役者がき着ぐるみを着ている)が登場した時、笑いが生じました。ちょっとちんけな感じの笑いと思いました。この後の幕で、父親が正直者で、198両+2両を届けたことが悪事を暴くことになるのです。

 小助がお竹に借用証書を書かせたのと、お竹の下駄を隠したのがお竹に罪をかぶせる工作だったのですが、ちょっと理解しにくかったです。

 この物語は伊達家のお家騒動がモデルです。伊達政宗の孫がモデルの足利頼兼(歌舞伎では実名を避け、別の家の物語に仕上げるのが常套だそうです)が放蕩三昧で隠居させられ、世継ぎの幼君の命が狙われるという話です。1幕目は、頼兼が遊興に溺れ、廓からの帰りの駕籠が襲われた場面でした。お抱えの力士が頼兼を守る立ち回りが見せ所でした。終わりの方で悪人の悪事が暴かれる裁判があるはずでその場面を期待していました。しかし、その場面はスキップされました。4幕6場面に収めるためにスキップしたらしいです。ストーリーからいうと、そちらはきちんと演じて、花水橋の場の方をスキップすべきだと思いました。どうもこの歌舞伎では立ち回りを見せるところに重点を置いたようです。その目的のためには力士の立ち回りを見せたかったようです。

(Chat GPTで作成)

 三番叟は元々は能の豊作祈願を舞で祈る3番で構成された演目でした。歌舞伎でもこれをとりいれてきました。ここでは、舞台を廓に置き換えた“廓三番叟”という演目でした。大尽、傾城(けいせい)、幇間、太鼓持ち、新造他が出演し次々と踊りを披露しました。新造は見習いの花魁です。太鼓持ちの踊りがあり、次第に格の高い人の踊りになっていきました。傾城とは城主が城を傾けるほど夢中になるような美人で教養のある花魁です。歌舞伎界の重鎮が演じます。ここで矛盾を感じました。歌舞伎界の重鎮と言えば年配の役者です。気になったのは傾城が位置を変えるのに移動するとき、年寄りが背中を少し丸めてよたよたと歩くように見えたことです。廓のナンバーワンが年寄りなわけありません。歌舞伎の重んじる格と、芸能が求める質との矛盾を感じました。

 

 突然、翌日時間がとれ、歌舞伎を観に行くことにしました。桟敷席が取れない場合、幕見席にすることが多いです。幕見席の予約は前日の正午からできます。念のためチケットWeb松竹のサイトの“空席照会”を見てみました。少し前まではなかなか取れなかった席が、今見ると翌日でもとれることが分かりました。最近歌舞伎座の混みようが緩和されたように思います。中国の観光客が減ったためかも知れません。表中△は、残席わずかということですが、翌日の分を見たら20席のうち3席が空いていました。ここ2か月、いろいろあって歌舞伎を観ていませんでしたが、久しぶりに行けます。