道 〜心臓外科医 奈良原裕のブログ〜 -3ページ目

道 〜心臓外科医 奈良原裕のブログ〜

あの日がくるまで僕は人生のうわっ面しか追いかけてこなかった。医師となり心臓外科医となって、これまで何をしてこれから何をしていきたいのか。この道がどこで終わるのかはわからないけれど、向きたい方向に顔を向けて歩いていこうと思う。

2016年9月2日。秋風が吹くにはまだ少し早く、夏の強い陽射しが日本の原風景を残す里山を照りつけていた。新潟県十日町市には4つの診療所と1つの歯科診療所があるが、うち2つの診療所と歯科診療所はすでに閉鎖となっていた。残る2つの診療所は、十日町市の中心に比較的近い「川西診療所」と同じ市内とは言えないほど遠く離れた旧松之山町にある「松之山診療所」だった。

 

2016年3月末、松之山診療所の常勤医が退職となり、4月以降は川西診療所の所長の遠藤先生が午前中は川西診療所、午後は松之山診療所という2つの診療所を掛け持つことで、松之山診療所はなんとか閉鎖を免れていた。

 

僕は心臓外科医として手術技術の向上に邁進する日々であったが、一方で、医師不足で困っているような地域の診療にも従事したいと思っていた。そんな折、全国自治体病院協議会の担当者から松之山診療所が非常勤医を募集しているとの連絡が入った。連絡が入ってすぐの7月と8月に一度ずつ松之山診療所を訪れ、そして夏真っ盛りの9月2日から、週に1日の非常勤医として松之山診療所で働くこととなった。

 

十日町市国保松之山診療所。かつては入院設備を持つ有床診療所だった。現在は松之山支所の移転に伴い診療所半分、支所半分という形で利用している。

 

 

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松之山診療所は、看護師の高橋さん、事務の鈴木さんのほか、川西診療所から応援の遠藤先生と看護師さん、医療事務のみなさんで運営されていて、そこに毎週金曜日の1日だけ僕が加わることとなりました。初めて見学に訪れた日から診療最終日まで、松之山のみなさんには本当によくしていただきました^ ^

 

診療初日のお昼にいただいた採れたてのトマト。あまりに美味しくて全種類いただきました^^;

 

 

横浜からの通勤は、新幹線を2つ乗り継ぎ、在来線やタクシー乗車など含めて片道約3時間半。往復すると約7時間にもなりますが、思いのほか通勤時間を有効に使えることがこの日帰りへき地診療を始めてみてわかったことの一つでした。大雪で帰宅不能となった日もありましたが、それはそれで今では良い思い出になっています^ ^

 

 

タクシー車内から撮った大雪の日の松之山。こんな日でもほくほく線は止まりませんでしたが、JR上越線が運休となりこの日は帰宅をあきらめて十日町市に一泊しました。

 

 

ところで、松之山診療所から車で5分の距離に日本三大薬湯の一つ「松之山温泉」があります。泉温が高く塩分濃度の高い泉質を源泉かけ流しで楽しめる温泉に、本当に美味しい魚沼産コシヒカリとたくさんの山菜料理。結局、松之山温泉には7ヶ月間で3回も泊まりました^ ^

 

温泉宿ごとに料理、温泉、雰囲気とすべてが楽しめる松之山温泉。日本三大薬湯の一つなのに草津、有馬のように有名過ぎないところが逆に良いところで、日本の里山の良さを残した貴重な地域だと思います。

※松之山の魅力を紹介するすごいWEBサイトが出来ていました!是非覗いて見てください!

『松之山ストーリーズ』 http://www.matsunoyama-onsen.com/

 

 

 

日本の原風景を残す里山「松之山」。ここでの診療は夏に始まり、彩りの秋、豪雪の冬を越して今、春を迎えつつあります。道路脇に高くそびえた雪の壁は低くなり、一面白一色だった山肌は少しずつ本来の大地が見え隠れし暖かさが目でも感じられます。大地と残雪の狭間に新緑が芽生える春がいいと、松之山の人たちはみんながそう言います。 

 

そんな松之山診療所にこの4月から常勤医師が来てくれることになりました。医師不足のため1年間、不便を強いられてきた松之山の人たちにとってなんという吉報だと思いました。地域医療は、その土地で生活を共にする医師が担う形に優るものはない、というのが、遠方から日帰りで訪れていた僕の率直な思いです。

 

というわけで、3月末をもって僕の松之山診療所での勤務は終了となりました。このブログに書き切れない山ほどの思いが松之山にはあります。春を迎える松之山を感じられないのは残念ですが、ここは本当に日帰り可能な場所なので、時間が出来たときにはふらっと行ってみたいと思います^ ^ (おわり)

 

 

歓迎会を開いてくれたときの2次会(3次会?)で激辛クッパを食べに行ったときの医療事務のみなさん。激辛もさながら僕は酔い過ぎていてひと口かふた口で撃沈。写真、勝手に載せてごめんなさい^^;

 

 

お昼は近くの(唯一の)居酒屋さんからお弁当を届けてもらっていました。画面右下のしらたきみたいなおかずは金糸かぼちゃの中華風炒め。金糸かぼちゃファンになった僕は一時期は毎週のように野菜直売所でかぼちゃを買ってはリュックに詰めて持って帰っていました。かなり重いのですが。。。

 

 

診療を終えて最寄りのまつだい駅でほくほく線を待っているとき。ここでセルフィーを撮ってよくツイッターに投稿していました。最も寒いときは、5分と外で待っていられませんでした^^;

 

 

松之山診療所の医師住宅前にて。常勤医となって希望すればここに住めます。医師住宅は温泉街のど真ん中にあって、なんとお風呂は源泉を引いてあるそうです!

 

 

3月上旬に送別会を開いていただきました。松之山診療所、川西診療所のみなさんのほか、十日町市市民福祉部の方々にも来ていただきみんなでとても楽しい時間を過ごすことができました。このあとカラオケに行きましたがやはり早々に撃沈。新潟のお酒は美味しく飲みやすいから仕方なしです(。-_-。)

 

 

そして、診療最終日を終えて。これまで受診してくれていた患者さんたちも診察半分、お別れ半分で診療所に来てくれました。松之山を通して、多くの方と出会い、忘れ得ぬ思い出をたくさん持つことができました。松之山のみなさん、本当にありがとうございました。