第21話「研ぎ」 | 道 〜心臓外科医 奈良原裕のブログ〜

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あの日がくるまで僕は人生のうわっ面しか追いかけてこなかった。医師となり心臓外科医となって、これまで何をしてこれから何をしていきたいのか。この道がどこで終わるのかはわからないけれど、向きたい方向に顔を向けて歩いていこうと思う。

「研ぎ」


下地研ぎは姿形を整える工程だ。道具は一見すればたわいないものだが、先達の叡智が詰まっている。尻が浮く状態で右方は床机から外れるのが理想とされ、修行中の者は床机と尻の間に卵を置く。その様子は鳥が木に止まっているように見えるとさえ言える。万が一、研面に異常事態が出たとき、すぐに停止できる姿勢なのだ。武道をやっている者ならわかろう。「いつかない」ことである。

道具の配置も妙だ。砥石の交換などの動きが連続動作として流れ、長時間でも安定した研ぎができるようになっている。

さて、砥石である。粗い砥石から細かい砥石へと6種類の砥石を使う。伊予砥(いよど)、備水砥(びんすいど)、改正砥(かいせいど)、名倉砥(なぐらど)、細名倉砥(こまなぐらど)、内曇砥(うちぐもりど)。次は仕上げ研ぎである。下地研ぎで表れた地鉄を美しくし、地刃の色調を整える。工程も下刃艶、地艶、拭い、刃取り、磨き、ナメルに分かれる。下地研ぎは砥石を換えての工程であったが、仕上げ研ぎは道具も作業も工程ごとに違う。

研ぎ師は刀匠の脇役的存在と思われがちだが、鍛錬と研磨がセットされてはじめて日本刀となるのである。清明で神々しい神器となるのだ。ゆえに研磨も神事である。

刀工の鍛冶場に注連縄が張られた神棚がある。注連縄とは神事の場に不浄なものの侵入を禁ずる印として張る縄である。研ぎ師の仕事場にも同じく注連縄が張られた神棚がある。水で流して砥石を当て、新しい清らかな面をだす禊(みそぎ)であるからだ。それが研ぎも神事なのだ。





今回お願いした研ぎ師さんの写真です。若いですが中学在学中から研ぎ師のもとに通い修業したというすごい研ぎ師さんです。激しい手の動きに対して微動だにしない身体の軸…

研師   各務弦太