エンドブレイカー!TRPGのリプレイ小説です。
リアル卓の補完創作なので、ゲームマスターによる表現や描写、プレイヤーのロールプレイを含めて、ある程度は実際の会話に忠実に書いております。記録を取っていたわけではないので、頼りにしたのはうろ覚えの記憶のみですが。
今回はプレイヤーとして参加したため、私のキャラの言動が(意識していないのに)強調されています。えこひいきってやつですね。
-----
酒の匂いと煙草の煙の残滓が鼻を擽る、薄暗い酒場。
辺りは既に夜の帳が降りているにも関わらず、酒場にはさほど人は入っていなかった。
また今夜は人が少ないだけでなく、客も異質だった。
カウンターに座る、二人の客。
それぞれ端に位置して座っている二人は、共に未成年だった。
現在、都市国家アマツカグラでは未成年の飲酒は認められていない。
かたや、こんな時間に出歩いているのは危険なのではないかと言うような少女だ。
そんな少女が夜の酒場でショートケーキをつつく様は、異様と表現するより他ないであろう。
風貌からすればティーンエイジャーにも満たない彼女は、おおよそ十と四年生きている。
クロと名乗るその少女は、可愛らしい風貌に似合わぬ斧槍を背負っていた。
エンドブレイカーである彼女は、重度の方向音痴を抱えながらも各地を彷徨う内にこの地に着いたらしい。
件の闘技大会から暫く経ち、現在に至る。
怪物退治の特別報酬こそ貰ったものの、相変わらずの貧乏道中だった。
一方で、カウンターの反対側で、酒場の主人に蜂蜜ミルクを注文しながら魔道書に目を通す少年。
最近では、オルギア・ルクスーシャと言う偽名を名乗っていた彼もまた、先日の闘技大会に出場してはいたものの、少女とは知り合っていない。
あの時とは違い、カソックと呼ばれるフードの無い黒いコートを纏い、首にロザリオを提げているこの少年もまたエンドブレイカーだった。
デモンと契りを交わし、その力を行使するに飽き足らず、彼はマスカレイドの源であるソーンをも扱うデモニスタの一種だ。
一部では、ソーンイーターと呼ばれる能力。当然、デモニスタのように人々に忌み嫌われるだけでなく、時としてエンドブレイカーにすら疎まれる。
生まれた時からデモンと交信していた彼は、また生まれた時から孤独であった。
そんな彼だが、彼もまたクロと同じ様に旅をしている。
膝を突き、地に伏したときに現れた赤い少女。邪なる者と戦い続けることを誓い、「待っている」と言う言葉のために歩み続けてきた。
世界に蔓延る理不尽に立ち向う、と言う目的においてはクロと同じだ。
・・・尤も、彼の場合は特定の住所を持つことの出来ない浮浪者なのだが。
徐に酒場の扉が開く。
あまり混雑していない所為か扉の音は二人の耳にも届き、二人は扉の方へ振り返った。
オルギアは誰に聞かせるでもなく一人で「ばぁん」と呟く。
男を見た二人には、その目の奥に彼の終焉が見えていた。
満月の夜の竹林、何者かに一瞬で首を切り落とされる男の姿。
あまりに短く、あまりに不鮮明なエンディングはそれ以上は何も教えてくれなかった。
しかし、二人にはすぐに思い当たる物があった。
決して豊かとは言えない彼らは、彼らなりの金策が必要だった。
巷では、首切り北斎と呼ばれる何者かが噂となっている。
ここ数日の間に、竹林で遺体が次々に発見され、そのどれもが頭部と胴体が綺麗に切断されており、紆余曲折を経て首切り北斎と言う噂を形作っているらしい。
しかし、被害は噂では済まないほど拡大しており、アマツカグラの城塞騎士も手をこまねいていた。
彼らの手にも負えないのか、姿も分からぬ北斎には多額の懸賞金が懸けられている。
腕に覚えのある二人としては、願ってもない収入だ。そしてその手掛かりが、正すべき理不尽と共に現れたのだ。
この機を逃す理由がなかった。
・・・因みに、その噂を聞いたときオルギアは「北斎って何だよ、抜刀斎じゃないのかよ。」と突っ込みを入れたが、物語に関係の無い話である。
扉を開けた男は、二人を気に留める様子もなくカウンターの真ん中へと座った。
水を頼もうとしている男の横合いから、立ち上がったオルギアが店主にウィスキーを頼む。
「しかし、あんた。」
「俺じゃない。こっちの男に、だ。それで・・・」
自然な動作で男の隣に座ろうとしたオルギアに、割って入るようにクロは男の隣に入り込む。
上から見下す形でクロを眺めるオルギア。
それを必死に上から睨み返そうとするクロだったが、オルギアは付き合わずにクロの隣に座った。
そんな二人を意にも介さない男の様子は、何か切羽詰った事情でもあるように思われる。
クロはショートケーキを、オルギアはグラーキ黙示録と呼ばれる魔道書を片手に、男と店主の会話に聞き耳を立てる。
どうやら彼は、雀の涙の報酬で捜索依頼を出しているようだ。行方知れずの兄を探しているらしい。
手短に話を済ませると、男はウィスキーも飲まずに脚早に立ち去ろうとする。
オルギアは勢いよく立ち上がると、席を立った男の胸倉を掴んで、顔を寄せて男に言いつけた。
「あんた、近々死ぬぜ。俺が助けてやろうか?」
「な、何を言ってるんだ?」
「まぁ、あんたがあの店主に依頼したのは正解だったなァ。聞いてた誰かがやってくれるかもしれないからな。・・・俺はやらないけど。」
「あ、あんた、もしかして・・・」
「知るか、興味ないし。じゃあな。」
一方的に会話を押し付け、返事を待たずにオルギアは酒場を後にする。
暫くまごついた後、我に返ったように男も酒場を後にした。
一人取り残されたクロは、先の男について店主に訪ねる。
「あいつ行っちゃったから、私が受けるわ。それでその人、どんな人?」
「大して詳しく聞いてないから、何とも言えないな。・・・だが、ナイフの扱いが恐ろしく上手いらしいな。今出て行ったあいつも、そう遠くへは行ってないだろう。追ってみたら、追いつくんじゃないか?だが嬢ちゃん、大して報酬がある訳でもないぞ?雀の涙程度だな。」
「雀の涙でもいいわ。ショートケーキの代金すら払えないほどお金に困ってるから。」
「そ、そうか。」
足が付かない椅子から飛び降り、運動神経を生かして着地した所でクロは駆け出す。
***
やがて、クロは首切り北斎が噂となっている竹林へ辿り着いていた。
絶望的な方向音痴が彼女を竹林へ導いたのだが、彼女自身は敵の本拠地へやって来れたと満足げにしていたところである。
得意げになっているクロに、何者かが気配を消して近づく。
クロの背後から迫る何者かは、カソックをクロの頭から被せ、首の辺りを掴み地面に引きずり倒した。
「おい、こんな所で何してんだ?」
「北斎の本拠地へ来た。」
「ふーん。あぁ、そうだ。あいつの兄さんだか何だかの情報って聞き出せたか?」
「んー・・・ナイフの扱いが得意らしい。」
オルギアはもがいているクロからコートを剥ぎ取り、袖を通す。
そうこうして騒いでいる内に、二人の耳には雑草を踏みしめる音が聞こえてきた。
徐に、オルギアが口を開く。
「ナイフで首って斬れるのかなァ?」
二人の背後からやって来た人物が口を開いた。
オルギアの牽制は、特に効力はなかったらしい。
「貴方がた、こんな時間にここで何を?」
先ほど、酒場で店主に依頼をしていた男だ。
名をハンゾウと言うが、最後まで二人は名前を訊ねなかったため、彼がこの名で呼ばれることはなかった。
「何だテメェは、こんなところにノコノコと現れやがって。」
「ここは危険です、貴方がたも噂は聞いた事あるでしょう?」
「だから言っただろ、あんた死ぬぞってな。」
雲の隙間から、竹林に月の光が差し込む。
今夜は、綺麗な満月だった。
月明かりに照らされ、辺りの様子がより鮮明に窺える。
気が付くと、彼らの方に何かが向かって来ていた。
あっと言う間に彼らの目の前に立ち塞がったそれは、3mを超えるほどの身長を持つ巨人のような生物だった。
手にはその巨大な身の丈と同じほどの野太刀を握っており、身体にはマスカレイドの白い仮面も確認できる。
この怪物こそ、恐らくは件の首切り北斎であろう。
「ったく・・・オラ、下がってろ。」
「あんたこそ下がった方が良いんじゃないの、おっさん。」
「あ?背中に重り背負ってるようなヤツが戦えるのか?」
「武器も持ってないやつに言われたくない。」
ハンゾウが騒ぎの外へ離れると同時に、戦闘行為が開始される。
踏み込むのが最も速かったのは北斎だった。
居合いの構えから、オルギアの首元目掛けて抜刀術の要領で攻撃する。
刀の長さ、そこから予想出来る重量を物ともせず、北斎は凄まじい速さで刀を薙ぐ。
オルギアの胸元に傷が刻まれ、小さくはない傷口からは鮮血が滴っていた。
胸を押さえながらも、カウンター気味に血塗れのオルギアの手から棘の弾が撃ち出される。
北斎の肩の辺りを捉えた棘は、呪いのような紋章を展開するが、身体へのダメージはあまり無いようだ。
背負った斧槍の重さに出遅れたクロだが、詠唱を終えたのか黒い猫型の星霊を召喚する。
「どっかで見たなァ、そのネコ。さーて、どこだったかな・・・」
アマツカグラに存在する役職である神楽巫女たちが使役するのが、かの黒猫のような星霊、バルカンだった。
もっとも、クロは神楽巫女ではない。神楽巫女は、ランスブルグで言う星霊術士にあたるらしい。
バルカンの放った火球が、北斎の巨大な体を捉える。
人のそれよりも頑丈そうな皮膚は、多少は焦げたものの致命傷には至らないようだ。
北斎は雄たけびをあげる。
すると、どこからともなく二人組の屍武者が現れた。どうみても、仲良くしましょうと言う雰囲気では無い。
屍武者たちが動き出す前に、オルギアが2体を牽制する。
オルギアが血塗れの手で胸元の十字架を握り締めると、十字の衝撃波が2体の屍武者を巻き込むように放たれた。
クロは大型の敵にしか興味がないのか、変わらず北斎へ攻撃を続ける。
黒猫の炎は、北斎を更に攻め立てる。ジリジリと北斎もダメージを蓄積させているようだった。
クロの詠唱の隙を狙って屍武者たちが襲い掛かるも、クロのあまりの小柄さゆえか屍武者たちは攻撃を外した。
更には、屍武者の後から追撃を加えようとした北斎の一太刀も、クロの身体の小ささの所為で空を斬る結果となった。
いくつもの斬撃を避けたクロだったが、次の瞬間にはオルギアに突き飛ばされる。
「下がってろ、邪魔だ!」
「ぐぬぬ、何を・・・!」
「ほーら、相手してやるよ。掛かって来いオラァ!」
オルギアはクロの一歩前に出て、北斎たちを挑発するように声を浴びせかける。
無理に前に出ようとせず、クロはその場で攻撃態勢に入った。
クロに呼び出された黒猫のバルカンが、きりもみ回転しながら北斎へと体当たりする。
バルカンの攻撃を受けた北斎は、身体を仰け反らせる。
突進の軌道の傍にいたオルギアも身を翻す。
「チッ、最近は炎運がねぇなァ、オイ・・・」
巨大な身体をぐらりとよろめかせた北斎だったが、しかしまだ倒れなかった。
だが、あろうことか北斎が次にとった行動は、屍武者への攻撃だった。
2体の屍武者の首を切り落とし、北斎は嬉しそうに雄叫びをあげる。
「クク・・・名前を知るだけで身体を乗っ取られる神性だって?面白いな、オイ。」
魔道書を読み耽り一人笑っていたオルギアは、不意に気が付いたように北斎に向けてソーンの棘を撃ち出す。
棘は、北斎の眉間に深々と突き刺さり、傷口からはおぞましい量の血液が流れ出ていた。
オルギアは、ダメ押しで棘を蹴りつけて、より深く突き立てる。
少し間を置いて、北斎の眉間に埋まった棘から、北斎の顔の裏側を抉るように根が広がった。
やがて、幾重にも別れて広がった根は、殻を破るように北斎の内側から突き出す。
北斎を苗床として絡みつくようにバラの根が全身に行き渡ると、北斎は既に動かなくなっていた。
呆気にとられていたハンゾウが、我に返ったように二人の下へ駆け寄る。
「あ、あの!有難う御座います、助かりました。」
「逃げろよ。あんな化け物を倒した怪物だぞ、俺は。」
「いえ、でも・・・」
「ハッ、次はテメェにも牙を剥くかもしれんぞ?」
「あのね、あいつ黒いノートとか持ってる人だから・・・」
「は、はぁ。」
ハンゾウは懐から、小さな革袋を取り出した。
オルギアとクロのそれぞれに、ハンゾウは革袋を押し付ける。
「私の全財産ですが、こんなものでよければ・・・」
クロはなけなしの報酬を懐にしまうが、オルギアはそうはしなかった。
僅かながら、しかししっかりと重量感を感じられる硬貨袋をハンゾウに向けて投げつける。
ぶっきらぼうに報酬を投げ返すと、相手の言葉も待たずにオルギアは踵を返した。
***
その後、二人には城塞騎士たちから正式に報酬が支払われた。
それなりの金額で、これから旅路を歩むのにも、装備を新調する分にも十分な額だ。
それぞれの道を歩む二人。
次に彼らが出会うのは何時、何の因果をもってするのだろうか。
***
とある階層都市。
街の明かりはとうの間に消え、真夜中の静寂だけが辺りを包んでいた。
住宅地、一際大きな塔型の建造物の頂点に、シラヌイは立っていた。
冷たい夜風が、頬を撫でる。
寒さゆえか、或いは別の理由か、シラヌイはくしゃみをした。
「誰かに捜索されている気がするな・・・」
しかし、そんなことはシラヌイにとっては些細な事だった。
「マスカレイド殺すべし、慈悲は無い。」
一陣の風が吹き抜けたとき、そこには既にシラヌイの姿は無かった。
闇夜に消え入るように、シラヌイは次の“任務”へと向かうのだった。