その日は、いつもと少しだけ様子が違った。
否、言ってしまえば全く同じ日等来る筈が無い。毎日代わり映えが無くとも、新しい一日を繰り返している。同じ日を延々と繰り返す等、SF等の創作の世界だけで充分だ。
同じではないからこそ、時が経つにつれ、小さかった歪みが大きくなっていく事もある。そして、そこから何かが変わってしまったりもする。そうやって変わっていく環境に適応しながら、生物達は進化してきたのだ。
・・・が、その様子が違う根本の原因が、それがそれなだけに、そんなにスケールの大きな話には感じられない。
玄関から帰って来た逸見に、綾織は気付いていないようだった。電話の最中のようだ。少々人が悪いようだが、聞き耳を立てる。
「違うんだ、父さん。私は今、そこに居ないんだ。」
「・・・」
「だから、飛行機で本州まで来て・・・!」
「・・・」
「大丈夫だ、毎日美味しい物を食べているし、病気だってしていないぞ!」
「・・・」
「いや、だから蟹は要らないって・・・」
「・・・」
「大丈夫だ、安心してくれ!!ちゃんと昼も夜も欠かさず食べてる、心配しなくても私は大丈夫だ!!」
「・・・」
「うん・・・」
「・・・」
「わかった。うん、それじゃあ。」
何食わぬ顔で、忍び足をしながら今の方へ入る。
しかし、すぐに気付かれてしまった。
「あぁ、居たのか!!」
綾織はパタリと携帯電話(巷ではガラケーと呼ばれているらしいタイプ)を閉じる。
「・・・もしかして、全部聞いていたのか!?」
「あぁ、いや、何も聞いてないよ、うん。」
「いや、悪気は無かったんだ!!いつも美味しい物が食べられるのはお前のおかげだ、わかってる!私もそんな、自分の頑張りで見たいな言い方をしたかった訳ではないんだ!!」
「あー、何も聞いてない、と言った筈だが・・・」
「・・・えっ?」
「そんな喋る暇があるなら、夕食を作る手伝いでもしてくれ。」
「あ、あぁ・・・。」
綾織は不安そうな声で、改めて問う。
「本当に、何も聞いてないのか?」
「あぁ、聞いてないさ。」
逸見は、ニヤ付いた表情で付け加えながら、流し台の方へと歩いて行く。
「・・・蟹は要らない、って事もね。」
「そうか、何も聞いてないのか。ならば、良いんだ・・・いや、良くない!さっき言った事は、本当の事なんだ。お前が聞いてなかったとは言え、言った事は言った。だから、謝らせてくれ!!」
捲し立てるかの様にそう言われて、逸見はキョトンとするしかなかった。
「許して、くれるか・・・?」
「あ、いや、別にどうでも良いんだけどさ・・・」
呆気に取られながらも、冷蔵庫を覗く。
その時、綾織が叫んだのだった。
「・・・って、何で蟹は要らないって言った事を知ってるんだ!?」
逸見は、やっと口許を歪めて笑みを漏らす事が出来た。