日本製鉄の脱中国(8/5) | sakoのブログ

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日本製鉄、中国大手と「合弁解消」が示す関係変化


2003年7月に新日本製鐵は宝山鋼鉄と自動車用鋼板を製造・販売する合弁会社設立で基本合意を締結した。左から三村明夫社長と千速晃会長(いずれも当時)。同年の12月にはアルセロールも交えて合弁契約を締結した(写真:時事)


日本製鉄が“脱中国”に向けて動き出した。7月23日、日鉄は中国・宝山鋼鉄(以下、宝鋼)との合弁会社である宝鋼日鉄自動車鋼板(以下、BNA)の合弁契約を解消すると発表した。


2004年に宝鋼と新日本製鐵(現日本製鉄)、ヨーロッパのアルセロール(現アルセロール・ミタル)の出資により設立されたBNA。2011年にはアルセロール・ミタルの持分を日鉄が買い取り、宝鋼と折半出資で運営してきた。


合弁契約がこの8月下旬に20年間の満期を迎えるが、日本製鉄は契約を更新しないことを決めた。日鉄は保有するBNA株を17.58億元(約370億円)で宝鋼に譲渡し、合弁から撤退する。


宝鋼と同じグループに属する武漢鋼鉄との合弁・武鋼日鉄(武漢)ブリキが残るものの、日鉄の中国での鋼材生産能力の7割を手放すことになる。


関係は師弟からライバルへ

日鉄と宝鋼の関係は、1977年に新日鉄の稲山嘉寛会長を代表とする日中長期貿易協議委員会が訪中した際、中国政府から上海での大型一貫製鉄所建設への協力を要請されたことにさかのぼる。山崎豊子氏の小説『大地の子』のモデルともなったこのプロジェクトを全面的に支援したのが日鉄だった。その後、両社は長らく“師弟”関係にあった。


BNAもそうした両社の関係から生まれた。2001年のWTO(世界貿易機関)加盟を契機に中国経済は急成長を開始。中国政府は自動車生産の拡大に踏み出すが、当時の中国には自動車用の高級鋼板を生産できる鉄鋼メーカーがなかった。日鉄の技術で自動車用鋼板の供給を目指したのがBNAだった。


だが、20年の歳月で状況は変わった。



中国は世界の粗鋼生産の半分以上を担う鉄鋼大国となり、宝鋼を傘下に持つ宝武鋼鉄集団は世界最大の鉄鋼メーカーとなった。その粗鋼生産能力は1億3077万トン(2023年)で、世界4位の日鉄の3倍に達する。


宝鋼を筆頭に自動車向けの高級鋼を手がける中国メーカーも増え、当初BNAが担った役割は失われつつあった。日鉄は合弁解消の理由を、BNA設立時の目的が達成されたためと説明する。


2021年には無方向性電磁鋼板で特許を侵害されたとして日鉄が宝鋼を訴える事件も起きた。日鉄は、今回の合弁解消は訴訟とは無関係とするが、両社の関係が師弟からライバルへと変わったことは否定できない。


業績への影響は軽微

中国の自動車市場では、EV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)といった新エネルギー車へのシフトが急速に進展。この動きに対応できない日系自動車メーカーは販売台数とシェアを落としている。BNAは日鉄にとっては日系自動車メーカーの需要に応じることを主目的とした合弁設立だったが、その役割も薄れつつある。


そもそも鉄鋼事業という視点からも中国市場の魅力はなくなっている。中国経済の減速で鉄鋼需要が低迷しているにもかかわらず、生産抑制は進まない。供給過剰で現地メーカーの業績は急速に悪化している。


日鉄の2023年度の海外事業の事業利益は1318億円。その半分弱を稼ぐのはインドだ。次いで利益貢献が大きいのは北中米で、東南アジア、南米、中国と続く。


日鉄の中国事業の中核はBNAだが、その2023年の純利益は4.1億元(約85億円)。日鉄が持ち分法利益で取り込めるのはおおむねその半分。合弁を解消しても業績への影響は軽微にとどまる。


日本国内の鉄鋼需要が右肩下がりの中、日鉄は国内でリストラを進めてきた。鉄鉱石から鉄を造る高炉は2020年初の15基から11基まで削減。2025年3月末までにもう1基停止する。高炉15基時代に5000万トンあった国内の粗鋼生産能力を4000万トンまで減らす。


一方、成長も諦めていない。「グローバル粗鋼生産能力1億トン、実力ベース連結事業利益1億円」を目標に、海外で積極的に投資を続ける。中でも重点地域と位置付けるのがインドとアメリカだ。


2019年にはインド5位の鉄鋼メーカー(現AMNSインディア)を、アルセロール・ミタルと共同で約7700億円で買収した(日鉄が40%出資)。2022年にはAMNSインディアが約1兆円の追加投資を決めた。港湾設備を買収したほか、高炉2基を含む各種生産設備を増強する。


アメリカでは日鉄単独で約2兆円を投じるUSスチールの買収を進めている。アメリカ以外の各国政府の承認は得ており、おひざ元となるアメリカ政府の承認待ち。だが、業界労働組合が買収に反対を表明、大統領選挙を前に政治問題化しており先が見通せない。


USスチール買収をめぐっては、アメリカの調査機関が日鉄の中国事業拠点が中国新疆ウイグル自治区に存在するとの虚偽情報を流し、それを受けた政治家から批判されたことがある。日鉄はUSスチール買収と今回の中国合弁の解消は関係ないとするが、結果的に米中対立の余波を受けにくくなる効果はありそうだ。


「中国が攻めてこない市場で戦う」

新興国のインドと先進国のアメリカーー日鉄が力を入れる地域には2つの共通点がある。


第1に市場自体の成長力。インドは中国を抜いて人口世界一となったが、1人当たりの鋼材消費量は中国の6分の1以下の水準で、今後の大幅な成長が期待できる。アメリカは先進国ではほぼ唯一の人口増加国かつ、今後のEVシフトなどで電磁鋼板といった高級鋼の需要が見込める。


第2が中国の影響を受けにくいこと。中国の過剰生産能力が消えてなくならない以上、この先も近隣国の鋼材市場は乱高下を余儀なくされる。そうした中、政策として中国鋼材をほぼシャットアウトしているのがインドとアメリカだ。


日鉄の橋本英二会長は過去に「中国が攻めることができない市場で戦う」と語っていた。今回の合弁解消は、中国に投じていた経営資源をシフトし、中国とデカップリングした新たなグローバル体制の構築の第一歩となるのかもしれない。


(吉野 月華:東洋経済 記者)


https://news.livedoor.com/article/detail/26895423/


アメリカのUSスチールとの交渉は、どうなるんでしょう?