医薬品の販売規制案(7/7) | sakoのブログ

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医薬品の販売規制案にドラッグストア反発の事情


(写真:すとらいぷ/PIXTA)


若年層を中心に社会問題化している市販薬のオーバードーズ。来年に薬機法改正を見込む医薬品販売制度に関する議論が進む中、厚労省が事前に示していた「とりまとめ」の内容に、ドラッグストア業界やネット事業者が懸念を示している。


ドラッグストア業界が反対の背景

6月6日に開かれた厚労省厚生科学審議会「医薬品医療機器制度部会」(制度部会)に、参考人として出席していた日本チェーンドラッグストア協会理事(当時)の森信氏は、「(OTC薬の)9割を売っている」というドラッグストア業界の意見が伝えられていないと訴えた。


「検討会とりまとめで提言されています購入者情報の記録・保管、いわゆる空箱陳列、これについては絶対に実行不可能でございます」(森氏)


市販薬のオーバードーズ問題に対して、厚労省としては何らかの規制強化は必要との立場だが、“濫用薬”の対象は現在、ドラッグストアにとっても稼ぎ頭である総合感冒薬約1500品目超が対象となるため、ドラッグストア業界にとって規制強化は容易には受け入れられない。


具体的には2024年1月12日公表された「とりまとめ」のうち、“濫用薬”の販売における「手の届かない場所の陳列」と「購入者情報の記録・保管」にドラッグストア業界は反対している。


「手の届かない場所の陳列」に関しては、カウンター奥への陳列(店頭では空箱陳列)、あるいはシールドに鍵をかけるなどの対応が想定されているが、ドラッグストア業界は前者については、総合感冒薬は棚3本分あり、「カウンター奥のどこにそんな場所があるのか」と反発。


後者については、鍵を開けるなどの作業によって購入者との間にトラブルが発生しカスハラ増加要因となること、購入者自身が商品を手に取ることができなくなるなどと反対意見を表明している。


また「購入者情報の記録・保管」については、サイバー攻撃が急増する中、企業が負うリスクが大きいことなどを指摘している。


「とりまとめ」の内容に反対しているのはドラッグストア業界だけではない。楽天グループ社長の三木谷浩史氏が代表理事を務める新経済連盟は、“濫用薬”の販売時に、購入者とのビデオ通話を介するいわゆるオンライン服薬指導形式とすることに反対している。「インターネット販売にビデオ通話を導入する負担は大きく、容易ではない」「対象商品や対象者への取り扱いを諦める事業者が多く発生し、市販薬へのアクセスが阻害される可能性」などの意見を表明している。


現状、市販薬を取り扱う事業者にとって、規制の強化は、コストの増大や収益減をもたらす可能性が高く反発は大きい。


「オーバードーズで何人死んでいるのか」

ドラッグストア業界の制度部会での発言や提言に対して、気にかかる箇所がいくつかある。


例えば日本チェーンドラッグストア協会の森氏は、5月16日の制度部会で「OD(オーバードーズ)、ODというけれど、どのくらいの人が死んでいるのか」と発言した。真意は、多くの人が適正使用している中で利便性が損なわれることのデメリットが大きいとの訴えなのだろうが、この発言自体は「本当にドラッグストア業界は市販薬の濫用という社会問題に向き合っているのか」という疑問を持たされる。


2023年11月に大阪で高校1年生の女子生徒が死亡したケースでは、せき止め薬のオーバードーズが原因と報道されている。表面化している事例は氷山の一角であり、若年層における死亡のうち、どれが市販薬のオーバードーズによるものなのかは判別が難しいとの指摘もある。


一方、オーバードーズの広がりを数値で捉えた研究もある。国立精神・神経医療研究センターの嶋根卓也氏は、高校生を対象に5万人規模の全国調査を実施。高校生のうち約60人に1人が過去1年以内に市販薬の濫用目的の使用経験があった。


また嶋根氏による別の調査では、1年以内の市販薬の乱用経験者が65万人との推計がなされた。これは無作為に選んだ15歳から64歳までの一般住民5000人を調査したもので、過去1年以内の乱用経験率0.75%との結果から推計したもの。「これまでは分子(患者数など)の情報が多かったが、初めて分母(実際の経験者数)を算出した調査結果といえる」(嶋根氏)。


市販薬の場合は非行歴もない女性が多い

そのほかにも、日本チェーンドラッグストア協会は6月6日の制度部会に「当日資料」を提出。全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査で、薬物依存症の治療を受けた10代患者の「主な薬物」で、危険ドラッグが縮小し市販薬が増大していることに対し、危険ドラッグについては規制がされたことが背景にあり、「安易に市販薬を規制するだけでは他の成分の濫用や非合法な手段へシフトするだけではないか」との意見を示している。


日本チェーンドラッグストア協会の資料(出所)


これについては国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦氏が、「危険ドラッグから市販薬にシフトしたのではないかと推察する方もいるとは思うがバックグラウンドがだいぶ違う」と指摘。市販薬では非行歴もなく、女性が多いという特徴があるとしている。


また、2012年から2020年にかけて市販薬を主たる薬物とする依存患者は約6倍に増えている。「今の規制のままでは濫用を防げないことはたしかだ」(嶋根氏)。


では、市販薬の濫用を防ぐのに、どのような規制であれば実効性があるのか。嶋根氏が厚労省の検討会で示したのがアメリカにおける青少年のOTC薬乱用に対する公衆衛生的な対策だ。アメリカではエフェドリンおよびプソイドエフェドリンを含有する医薬品は、カウンターの後ろ、または施錠されたキャビネットに置かなくてはならないこととされており、記録や保管も行われている。


こうした施策後に、アメリカでは青少年におけるデキストメトルファンの濫用が減少したとのデータも示されている。検討会の委員の多くが、医薬品販売の便利さと安全性には一定の逆相関が成り立つとの主張はこうした事例を根拠としている。カウンター奥の陳列は、万引きなどの不適切な入手方法の予防効果もある。


ただし、アメリカの事例では、医薬品の陳列方法だけでなく、医薬品の箱や包装への啓発文言の記載や保護者に対する教育などがパッケージで行われており、嶋根氏も「このうちのどの施策が功を奏したのか、選別することは難しい」と指摘している。


そのほかに、実効性のある施策として指摘されているのが「店頭での声かけ」だ。嶋根氏も「薬剤師や登録販売員による声かけ」が大量購入の抑制力になる可能性があるとしている。


濫用防止に向けドラッグストアが実施すること

日本チェーンドラッグストア協会は、何も反対だけしているわけではなく、市販薬の濫用から国民を守るためのゲートキーパーの役割を担うと宣言している。その手法は医薬品販売への専門家の関与だ。森氏は6月6日の制度部会で「確実に現場で医薬品コーナーに資格者が常駐して、医薬品の濫用、濫用以外も購入状況を見ながら声かけもやること。今までやってこれなかったことを人員を増やして資格者を徹底的に増やしてやっていこうと。これが一番の濫用防止だ」と述べた。この言葉の実行への責任も重いだろう。


あまり情報発信が上手ではないのかもしれないが、ドラッグストア業界の中には、“濫用薬”に関する社会的責任を受け止め、嶋根氏と協働した研修資材を作成したり、実際に研修を行ったりしている企業がある。また、こうした専門的な研究者と直接、対話し、よりよい施策への検討を行う企業もある。


ドラッグストア業界が産業として、多大なコストに見合った効果が政策によって得られるのかを向うことも当然だ。どんな単店舗で規制を強化しても隣の店舗で買えてしまえば効果は薄いという主張は一理ある。


本人確認のとれるマイナンバーカードの活用やオンライン資格確認の活用情報に“濫用薬”も含めるべきとの指摘は多くの委員から出ている。導入には読み取り端末やデータ保存料などの費用負担の問題が横たわっているとも言われているが、事業者だけでなく、国の“濫用薬”への姿勢も示す必要も指摘されている。その1つがマイナンバーを活用する仕組みの構築だ。


総合感冒薬の購入に身分証の提示等が必要に?

厚労省「とりまとめ」の方向で進めば、総合感冒薬の多くについては20歳未満の人は複数・大容量の購入はできなくなるとともに、購入の際に身分証の提示等が必要になる。ネット購入では映像を伴うオンライン対応となる。20歳以上でも小容量では必要に応じて、複数・大容量では原則、身分証の提示が必要になる見込み。記録する購入者情報については具体的には氏名や年齢が挙げられており、個人ごとに頻回購入を確認することを主目的としている。


今後、年末までにおよそ月1回程度のペースで制度部会が開かれ、着地点を見出す見込み。その内容は年内には「報告書」の形で公表され、2025年度には国会で薬機法改正案が審議される。


総合感冒薬を購入するのに身分証の提示を拒む人がどれぐらいいるかは読めない。面倒だと感じる人に向けては、総合感冒薬自体に“濫用薬”の成分を含まない商品が多く登場してくる可能性を指摘する声もある。あくまで規制は総合感冒薬にかかっているのではなく、濫用のおそれのある医薬品の成分を含有しているかどうかに関わるからだ。


「とりまとめ」の方向を支持する日本薬剤師会は、規制はかかるが、その機会を確実な情報提供に活かすことができるとの利点を提示する。「そもそも医薬品は販売において規制が設けられている品目であり、それは国民の安全確保が目的だ。そのために専門家がいる。それを忘れない議論をしてほしい」(日薬副会長の森昌平氏)。


森昌平副会長は、加えて「制度が変わってもそれを動かすのは“人”」だとし、「販売可否の判断、適切な選択支援や注意喚起、情報提供、必要な支援に結びつけるための専門家の対応が重要」とするとともに、「専門家によって国民が“守られている”という実感を持ってもらうことが何より重要だ」と話している。


嶋根氏も、「誰がどのような情報を提供するのかが問題」と指摘。「薬剤師や登録販売者が乱用や依存リスクの高い患者を気づき、声をかけ、共感的な態度で話を聞き、必要に応じて専門的な支援につないでいくゲートキーパーの役割を担うための研修プログラムの開発も重要となる」と指摘している。


制度改正には国民からの理解も不可欠な要素になる。「知らず知らずに苦しむ」人が出てしまう可能性のある“濫用薬”の問題にどう国民は向き合うのかが問われているともいえる。


(菅原 幸子:医薬品業界誌記者、『ドラビスon-line』編集長)


https://news.livedoor.com/article/detail/26710836/


“売れればいい”というだけの時代ではないのは確か!

ややこしい時代です。