資源管理の危うさ!(6/3) | sakoのブログ

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サンマ漁獲枠を削減でも「獲り放題」の残念な実態


(写真:筆者提供)


「過去最低の漁獲量」「歴史的不漁」といった言葉が、サンマをはじめ、さまざまな魚種で、かつ全国で毎年のように出てくる日本の漁業。前年度より少しでも漁獲量が増えただけで、分母が小さくなったことを考慮せずに「前年比○%増」「前年比○倍」などと報道されます。


しかしながら、数十年という長いスパンで見れば大した増加ではなく、逆に大きく減少しています。そして数年たつと漁獲量はさらに減るという負の連鎖の繰り返しです。


これは、国際的な視点でみると、科学的根拠に基づく漁業管理・数量管理を怠ってきた結果にほかなりません。魚が減っていく本当の理由について社会的に誤解が広がっていることが「大問題」なのです。


サンマは実質「獲り放題」のまま

2024年4月15日から18日にかけて北太平洋委員会(NPFC)の年次会合が大阪で開催されました。そこで、不漁が続き危機に瀕しているサンマの漁獲可能量(TAC)について、日本・中国・台湾をはじめ9カ国・地域で会議が行われました。


NPFCの対象海域と参加国(出所)水産庁


決まった内容は、公海上のTACが前年の15万トンから10%減の13.5万トンに削減され、これに日本の排他的経済水域内でのTACを加えると、全体では同10%減の22.5万トンまでは漁獲可能というものです。昨年も同25%減だったため漁獲可能量「削減」という報道だけ見ると、資源管理が進んでいるように感じられるかもしれません。


しかしながら、昨年のサンマの漁獲量は全体で12万トンしかなく、資源の減少が止まらない環境下で、漁獲枠が22.5万トンでは実質「獲り放題」のままなので、資源管理の効果は出せないのです。


減り続けるサンマの資源量(出所)水産庁


「漁獲枠削減」という方向性は間違っていないのですが、効果がない数量管理で資源が回復するはずはありません。資源が減ったのでTACを減らす。しかしそのTACが大きすぎて効果はない。資源が減ってさらにTACを減らす‥という「いたちごっこ」が繰り返されているのです。


国ごとにTACを決めることは、国益が絡むため非常に難しいです。しかしながら、国民が資源管理の重要性に気づいておらず、サンマが獲れないのは海水温上昇や中国のせいと信じているようでは、サンマに限らず水産資源の先行きは非常に暗いです。


そこで国民に資源管理の正しい知識を広めることが、国際的な青魚の漁業・水産関係者と長年にわたり太いパイプを持つ、筆者の重要な役目と思料しています。


今回の漁獲枠削減に効果があるのか?

今回の10%の漁獲枠削減で資源管理に対する効果があるのか?拙記事を読んだマスコミの方々からは「ありませんよね?」と確認されます。残念ながら「ありません」としか答えようがありません。


ただし重要な情報も伝えられました。NPFC委員会関連の報告の中で、資源が減ることより漁獲量を減らす方式で計算すれば、「枠は7.3万トンになります」という数字が言葉を選びながら出されていました。


つまり、資源が減少した場合に漁獲割合を下げるという、より標準的な規制の一例の計算では、適正な漁獲枠の数量は7.3万トンなのです。これが委員会での「科学勧告」なのです。


資源管理にある程度の知識があれば、昨年の漁獲量が12万トンなのに、資源の減少傾向が続く中で、日本のEEZでの漁獲量も含めて、漁獲枠が22.5万トン。「科学勧告」である7.3万トンの約3倍の枠では、獲り放題のままであり、乱獲を止めることはできないことがはっきりとわかります。


北欧のサバでも困難に直面している国別枠の配分


小さなサバは獲らない仕組みができているノルウェー(写真:筆者提供)


北大西洋のサバの漁獲枠配分をめぐっては、現在でも合意ができておらず配分の難しさを物語っています。もともとはノルウェーとEUが主体で資源管理をしていたサバ。そのサバの回遊経路が変わり、それまでサバを漁獲していなかったアイスランドやグリーンランドでもサバが獲れるようになりました。


またデンマークの自治領であるフェロー諸島が、配分が少ないと言い出し揉めました。そうこうする内に、サバ漁に向けての漁船や加工工場の設備投資が進められてしまい、こうなると後には引けません。このケースと、サンマを対象に中国や台湾などが漁船を建造して後には引けないパターンは類似しているのです。


ただし、大西洋のサバにおいては、各国が自制し3歳未満の未成魚の漁獲はせず、またサバの枠においても過剰なレベルではないので、日本のようにサバの未成魚まで漁獲してしまい資源がなくなるということは起きていません。


国益が絡む国際交渉は非常に難しいです。しかしながら「漁獲枠を10%削減」では効果がなく、「引き続き過剰な漁獲枠」が設定されていて、研究者も非常に懸念している、といった実態に即した報道が不可欠なのです。


マスコミがよく調べずに表面的な内容だけを伝えてしまう悪影響が、取り返しがつかない段階に来ました。かつて大本営発表がどれほど甚大な被害をわが国にもたらしたかは歴史が語っています。「本当のこと」が報道されやすくなる環境が非常に重要なのです。


サンマに限らず現在の資源管理をめぐる状況は、科学的根拠に基づく正しい情報がほとんど伝えられていません。このため日本全国で魚の獲りすぎが起きて、サンマに限らず水産資源が大変なことになっているのです。


漁業者が原因ではなく「資源管理制度」の不備

このような魚が獲れない、供給減で魚価が上がっている状況下で「漁業者の方に魚を獲るのを我慢してください」と言って「自主的」に我慢していただけるでしょうか?仮に我慢した漁業者がいたとしても、その分、他の漁業者の方が獲ってしまうことが考えられます。これを「共有地の悲劇」といいます。


一般には獲れなくなってしまった原因が「漁業者にある」と考えている人は少なくありません。しかしながら、本当の原因は「資源管理制度」の不備にあるのです。これは、漁業者が原因と考えられている方が、自分を漁業者の立場に置き換えられればわかることなのです。


サンマが獲れなくなったのは「海水温上昇」と、中国や台湾などの「外国漁船」が日本の海域に来遊する前のサンマを獲ってしまうから。はたまた「黒潮大蛇行」の影響といった報道が流れて、多くの国民がそう信じています。過去最低の水揚量と海水温上昇を比較すると驚くかもしれません。


筆者は、それらに原因がないとは言いません。しかしながら、本質的には「科学的根拠に基づく資源管理」が行われていないこと、簡単に言うと「獲りすぎ」が原因であることを一貫して主張しています。


そして「漁獲可能量が大きすぎて機能していないこと」、「日本のはるか沖合の海水温が高くない公海上でも不漁となっていること」「仮に資源管理を行っても実績がかつての80%から20%に減っているため、かつての20〜30万トンの漁獲量に戻る可能性はない」ことなどを、ノルウェーをはじめとした海外の資源管理と比較しながら10年以上発信続けてきました。


特に、近年ではネットで拙記事を読んだ方々が「これまで理解していた内容の間違い」に気づき、筆者に取材するケースが増えています。筆者は北欧の資源管理にビジネスを通じて20年以上かかわっており、現場経験も長くあります。拙記事のほうが報道より客観的で数字や分析がしっかりしていることに強い危機感とともに驚かれるのです。


サンマに限らず、スルメイカ、サケ、シシャモ、イカナゴ、アジ他ほぼ全魚種の資源が減り続けている日本の水産資源。その原因は資源管理制度の不備に尽きます。そこで「魚が消えていく本当の理由」を国民の皆様にくまなく理解していただき、世論を変えていくことが筆者の目的です。


問題の本質は資源管理にある

関係者が「本当のこと」を言いやすい雰囲気を醸成し、さらに海外ともつないで資源管理の輪を広げていきたいと考えています。魚が減ってよいことなど1つもありません。



資源状態があまりにも酷くなってしまい、今さら本当のことなど言えないといった関係者は少なくないはずです。しかしながら、SDGsが子供たちの学校でも取り上げられている中で、このまま目を覆って負の世界を次世代に引き継いでよいのでしょうか?


一部マスコミで2024年の日本漁船のサンマ枠は、前年比の6%減で不漁で影響は限定的という記事を見ました。少しでも気持ちを楽にしたいという視点での記事だったかもしれません。しかしながら問題の本質は、資源管理に効果がない大きな枠が設定されていることなのです。資源管理に効果がないので、将来のサンマ漁にとって悪影響が非常に大きいのです。


「過ちて改めざるこれを過ちという」(孔子)。日本の水産は長きにわたりこの状態です。世界では水産業は成長産業です。科学的根拠をもとに正していきましょう。


(片野 歩:Fisk Japan CEO)


https://news.livedoor.com/article/detail/26496912/


水産業を取り巻く全体像が

把握されていないからかな?