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心に形成されているのだし、『家庭』の長である家長は、例え入り婿でも男がなると決まっているのだから。
 そして、妻となった女は、可能な限り夫となった男を立てるのが美徳であるとされているのならば、極端な話、『王配』は『家庭』を通して『女王』に『命令』することすら可能であるかも知れない。
 少なくとも、『王配』が公式な場でなにか意見を言えば、『女王』はそれを無視することは出来まい。

(そうだよな。貴族出身の婿さんなら大抵権力欲はあるだろうし、そんなヤツを『王配』に添えたりしたら、最悪アウラさんの権力が丸ごとそっくり横取りされる可能性もあるのか。まあ、そこまではいかなくても、自分の実家に利益誘導するくらいは、まず絶対にやるだろうなぁ)

 女王と王配の二重権力構造。最悪の場合は、国を二つに割る内乱に発展してもおかしくはない。

なるほどねー。そう考えれば、わざわざ異世界から婿さん候補呼びたくなるのも分かるわ。異世界の婿さんが、政治的野心を持っていない保証はないけれど、最低でも実家の紐付きにはならないもんな。婿さんの実家が外戚として権力を振るったりしないだけでも、十分に意味あるよなぁ)

 古今東西の歴史をひもとけば、王の配偶者の親族――『外戚』が国を乱す原因となるケースは非常に多い。

 色々と考えて、立て続けてに質問をしてくる善治郎を、興味深げに見守っていたアウラは、善治郎が落ち着いたのを見計らい、問う。

「この様な一生を左右する選択を即答しろというのが、無茶であることは承知している
。しかし、先にも述べたとおり、召喚魔法は星の並びに左右される故、時間があまりないのだ。
 今すぐ答えを出してくれなくても良いが、最低でも明日の朝までには心を決めて戴きたい。
 なにぶん全てはこちらの一方的な都合から生じた話だ。例え、断られたとしてもゼンジロウ殿には一切の危害は加えぬし、もし引き受けて頂けるのであれば、そなたの妻として可能な限り誠意を持って接することも約束しよう。
 どうであろうか、ゼンジロウ殿」

 アウラは、柔らかい笑みに真剣な眼差しを乗せ、そう善治郎に説いた。

「はい、そうですね……」

 善治郎は、軽く目を瞑り、考える。
 善治郎が今立てた仮説が正しいのだとすれば、これはとても美味しい話だ。
 しかし、何度も言うとおり、その代償として払うのは、今日まで過ごしてきた地球での生活丸ごとすべてなのである。
 曲がりなりにも山井善治郎という男は、今日まで、一人の人間として自らを支え、自らを律し、自らを養って生きてきた。
 確かに、仕事はきつかったし、職場ではいつも辞めることばかり考えていたが、自立した生活を営んでいたという、誇りが善治郎にはある。
 それは、一人の男としての『矜持』とも言うべきものだ。
 アウラの要請を受け入れるということは、その『矜持』を捨て去り、女に飼われる生活を受け入れることを意味する。
 果たしてそれで良いのか? 山井善治郎という男の『矜持』は、そんな簡単に捨て去ることが出来るほど軽い『ヘ』のようなものだというのか?

(少し、冷静に考えてみれば、悩むことなんか何もない問題だよな)

 うだうだと、明日の朝まで返答を引き延ばすような代物ではない。既に、結論はとっくに出ているのだから。
 己の心が定まった善治郎は目を開くと、アウラの赤茶色の双眼を正面から見据え、テーブルの上に身を乗り出すようにして、きっぱりと言う。

「結婚しましょう! アウラさん!」

 山井善治郎の、男としての『矜持』は、まさしく『ヘ』のようなものであった。   幕間1【女王サイド】

 山井善治郎が地球から召喚されたその日の夜、