航海614日目
私は普段
自動車学校に
勤務しています
この業界は
今が1年でもっとも
忙しい時期
ここ数年、
事務仕事が多くなった私も
この時期だけは
日々教習に明け暮れます
この教習の楽しいところは
なんたって
実に様々な人と
出逢えること
今の時期は
圧倒的に高校生のかたが
多いのですが、
大学生や専門学生、
社会人のかたなどなど
実にいろんなかたがたの
教習を担当させて
いただきます
中でもここ数年で
すごく増えているのが、
海外からいらしているかた
なんです
Hさんもそんな一人で
4年前に
中国から日本に来られた
かたでした
このHさん、
日本語はもうハッチリで
私のくだらないオヤジギャグも
きちんと理解して
笑ってくださるほど
ですから
言葉の壁はほとんど
ありません
しかし
運転に関しては
「不安しかないです~」
とおっしゃるほど
自信がない様子
そのせいか、
教習前は私の話に
笑ってくださっていたのに
ハンドルを握った途端笑顔は消え
緊張感でいっぱいの表情に
変わっていきます
この日は5回目の教習
だったんですが、
確かに通常よりも
進度は遅れ気味な感じでした
とくれば
俄然燃えてきちゃいます
「何とかこの時間で
運転の楽しさを
知っていただきたい」
そう思って
心の中がフツフツと
燃え上がってくるんです
Hさん、
カーブや曲がり角に来ると
車がフラフラしちゃいます
その原因を探ってみます
進入前の速度作りはOK
ハンドルの回しかたも
バッチリで問題なし
この2つに関しては
むしろかなり上手いほう
だからまず
そのことをお伝えします
「Hさん
ブレーキがメチャメチャ
上手いですね
曲がる前にキチンと
余裕のある速度を
作れています
しかもハンドルの回しかたが
最高!
まだ5回目の教習なのに
すでにキレイな回しかたが
できています」
そうするとHさん、
「ホントですか!?
はじめて言われました~」
と、
ハンドルを握ってからは
初めての笑顔を見せて
くださいます
そこで私が続けます
「その二つはバッチリなのに
一つだけ惜しいところが
あるんです」
Hさん、
「エッ!?
どこですか!?」
と前のめりになります
実は
Hさんは怖さのあまり
曲がる際に
目の前のガードレールや
中央線、
対向車などに
目を奪われてしまって
いたんですね
目線の誘導が
上手くいっていないことが
曲がる際のラインの乱れに
つながっていたんです
私はそのことをHさんに
お伝えし
目線の誘導について
写真などを使って
できるだけ細かく説明しました
その上で
「ブレーキやハンドルを
あれだけ上手に使える
Hさんですから
あとは目配りだけ
意識していただけたら
必ずうまくいきますよ!」
とお伝えしてからの
再スタートです
1回目
曲がりはじめは
意識できているんですが
途中でまた
ガードレールに
目を奪われちゃいます
「惜しい!
最初は意識できていましたね
次はガードレールを
見ないようにしてみましょう」
2回目
今度はガードレールを見ずに
目線が行き先に
向かっています
それにともなって
車はキレイなラインを
描いています
しかし最後の最後、
ハンドルを戻す際に
手元を見てしまったので
車が蛇行しちゃいます
「すごい!
曲がるラインは完璧でしたよ!
あとはハンドルを戻す時に
まっすぐ前を見ていたら
きっとキレイに抜けられます」
そうお伝えしてからの
3回目
カーブの入口から出口まで
Hさんの目線の誘導は完璧!
それに呼応するように
車は美しいラインを描き
カーブを抜けていったのでした
「Hさん!完璧じゃないですか!
最高にキレイなラインを
描きましたよ!
目線がバッチリだったから
曲がっている時の
Hさんの姿勢がまた
最高にカッコよかったです!」
そうなんです
目線の誘導がキチンとできると
運転している姿が
自然とカッコよくなるんです
そうお伝えすると
Hさんは急にその場で
車を停めてしまいました
「どうしたんですか?」
と声をかけると
Hさん、
泣いておられました
「嬉しいんです
ちゃんとできたのが
すごく嬉しいんです
先生、
ありがとうございます」
そうおっしゃって
Hさんは
涙を拭います
その姿に
私も思わずもらい泣き
車の中が
なんとも心地よい空間と
なったのでした
周りから見たら
変に思われたかも
しれませんが…(笑)
「ほめる」って
やっぱりすごい!
国境すら飛び越えて
Hさんにも
きちんと届いていく…
そうして
こんな素晴らしい時間を
もたらしてくれるんです
時間の最後、
Hさんはこうおっしゃって
くださいました
「先生ありがとう
あんなにほめてもらったの
初めてです
おかげで次回が
楽しみになりました
また先生だったらいいな」
そうおっしゃって
ニッコリ笑うHさんに
私の顔が
「これでもかっ!」
というくらいクシャクシャに
なったのは
言うまでもありません(笑)
国境すら越えていく
「ほめる」
ほめ達!という道を選んで
「ほめる」ということに
軸足を置こうと決めて
ホントによかったなぁと
心から思う私でした
Hさん
もう大丈夫!
これからも
運転を楽しんでくださいね♪
では、良い旅を!!