総務省は2024年4月16日、LINEヤフーに対して、2度目の行政指導に踏み切った。
LINEヤフーをめぐっては、韓国・NAVER Cloudが委託していた企業の従業員が所有するパソコンがマルウェアに感染。LINEに関わる利用者情報などが流出する事案が発生した。LINEヤフーとNAVER Cloudでの従業員情報を扱う共通認証基盤が、旧LINEの社内システムへのネットワーク接続が可能であったため、NAVER Cloudのシステムを経由し、LINEヤフーのシステムへの不正アクセスがあったとされている。
総務省では3月5日に行政指導を行い、LINEヤフーに対して「4月1日に再発防止に向けた取り組みに対する報告書」の提出を求めていた。ただ、4月1日に提出された報告書に対して、総務省が「対策が十分ではない」と判断し、異例の2度目の行政指導になったようだ。
行政指導を2回も繰り返すことになった総務省としては「怒り心頭」といった心境なのではないか。
総務省が見過ごせなかった「2つの争点」
報告書にはシステムへのアクセス管理強化などの応急措置は実施済みであるとしたものの、
- 肝心な「NAVERとのネットワーク完全分離が2026年3月末と2年先であること」
- 「グループ全体のセキュリティガバナンス見直しの具体的な内容が不十分」
というこの2点について、特に総務省としては我慢がならなかったようだ。
松本剛明総務相は、「前回の行政指導への対応が不十分だったという事態を重く捉えた。徹底した対応を期待する」とコメントしている。
総務省が厳しい姿勢をとる理由は、LINEが「我が国の国民の大多数が日常的に利用しているサービスであること及び地方自治体を含め公共機関も利用しているサービス」(報告書より引用)にも関わらず、LINEヤフーの自覚が薄く、全く危機意識がないと感じられる……という失望と焦りにあるのだろう。
総務省としては、(前回の行政指導でもあったが)わかりやすい「対策」としてLINEヤフーとAホールディンスグス、さらに同社の親会社であるNAVER、ソフトバンクとの「資本関係の見直し」を求めている。
国民や自治体が利用するメッセージサービスに対して、海外資本が入り、技術的に依存しているのを総務省としては快く思っていない。
総務省として「セキュリティ対策」を求めるという名目ではあるが、このタイミングで「NAVER資本との切り離し」をソフトバンクに了承させるつもりなのだと筆者は考えている。
ただ、ソフトバンクとしても、おいそれと総務省の意向を鵜呑みにはできないはずだ。そもそも、LINEに投入されているNAVERの技術力やサービス企画力を、他社で補うことは容易ではない。
今後、LINEとPayPayとの融合を図っていくにはNAVERの技術力を最大限生かしたいというのがソフトバンクの狙いであるはずだ。
NAVERとしても、日本で成功しているヤフーやPayPayとの連携を進めることで、自社サービスへの応用を進めたいだろう。
総務省としては資本関係の分離を求めるが、ソフトバンク、NAVERともにのらりくらりと交わしたい……というのが本心なのではないか。
その理由はこうだ。
世界情勢を俯瞰すると、欧州で施行されたデジタル市場法(DMA)によって、AppStore以外のアプリストアからアプリをダウンロードできる「サイドローディング」が欧州限定でiPhoneに導入されつつある。
また、DMA施行に合わせる形で、アップルは全世界に向けて「アプリ内アプリ」の制限を緩和しつつある。
これにより、ひとつのアプリのなかでさまざまなゲームアプリを配信できるようになったり、AppStoreが提供する決済手段以外の支払い方法を提供できるようになったりつつある。
「アプリ内ミニアプリ」が解禁されるということは、例えば、LINEのなかで、新たなアプリを提供し、PayPayで決済する、あるいはPayPay内でミニアプリを提供し、PayPayで決済するといったことも可能になる。ソフトバンクにとっては無限の広がり、ビジネスチャンスが期待できるようになることを意味する。
ソフトバンクとしては、国内9600万(2023年12月末時点)のユーザーを抱えるLINE、国内6000万以上のユーザーのPayPayを融合させていくうえで、アップルのAppStoreの運用ルール見直しは絶好のタイミングだったとも言える。