アサヒスーパードライが大好きです!がんばれ、アサヒ!!
新型コロナウイルスの影響で、アサヒビールが苦境に立たされている。直接的な原因は、居酒屋をはじめとする業務用ビールの比率が高く、宴会自粛の影響を受けたことである。業務用がダメなら家庭用を強化すればよいということになるが、話はそう単純ではない。
アサヒは日本では珍しく、明確なマーケティング戦略をもとに事業を展開してきた企業だが、コロナによってその戦略が根本的に崩れてしまった。立て直しにはかなりの時間がかかるだろう。
●「業務用ビール」がコロナ禍でピンチ
ビール大手各社における5月の販売動向は、発泡酒や新ジャンル(第三のビール)を含む「ビール類」のカテゴリーで、キリンビールが9%減、サッポロビールが20%減、サントリーが4%減、数量ベースでの公表をやめたアサヒは金額ベースで22%減だった。一方、発泡酒などを含まない純粋な「ビール」の販売実績は、キリンが41%減、サッポロが39%減、サントリーが55%減だった。アサヒは全体の販売数量を公表していないが、主力のスーパードライは35%減となっている。
純粋なビールの販売動向だけを見ると、アサヒだけが大幅に落ち込んでいるわけではなく、むしろ他社よりも影響が軽微にも見えるが、全体の業績という点ではそうはいかなくなる。
アサヒの売上高に占めるビールの比率は高く、しかも、ビールの販売数量のうち居酒屋など業務用の販売ルートが半分を占める。業務用ビールの販売は、宴会自粛で居酒屋が経営不振に陥っていることから急激に減少しており、すぐにこの状況が改善するとは考えにくい。
業務用ビールの販売が落ち込んでいるのは各社共通だが、ビール比率の高いアサヒの場合、業績への影響が大きくなってしまうのだ。
●“スーパードライ戦略”、逆に足かせに
居酒屋での宴会がなくなった分、いわゆる家飲みに切り替えた人は多いはずなので、量販店やコンビニなど家庭用のチャネルを強化すればよいという話になるが、現実はそう簡単ではない。家飲みを前提にした製品と業務用の製品とでは、マーケティング戦略が根本的に違っているというのがその理由である。アサヒは日本企業としては珍しく、マーケティング主導で業績を伸ばしてきた企業だが、逆にこれが同社の足かせとなっている。
説明するまでもなく、アサヒは大ヒット商品「スーパードライ」で一気に業容を拡大したという歴史を持つ。かつて国内のビール市場はキリンの独壇場となっており、キリンからシェアを奪い返すのは不可能と言われていた。キリンは三菱グループということもあり、強固な営業ネットワークを持っており、営業力でキリンの牙城を突き崩すのは容易ではなかった。
だが、アサヒはスーパードライを前面に押し出し、1998年にとうとうキリンとのシェアを逆転させた。それまでのビール市場は基本的に営業力が決め手になると考えられていたが、90年代は時代がシフトするタイミングであり、市場の構造が大きく変わり始めていた。
アサヒは、従来のビールとは一線を画した味で製品開発を行い、広告宣伝を重視。瓶ではなく缶を中心にデザインするなど、新しい販路や顧客層を強く意識していた。つまり、スーパードライは完全にマーケティング主導の商品であり、これが市場の変化にうまくマッチしたことから不動の人気商品となった。
その後、市場がさらに変化し、発泡酒など価格の安い商品が普及してからも、アサヒはスーパードライを基軸にしたマーケティング戦略を継続した。高い知名度を生かして、居酒屋でスーパードライを飲む顧客がそのまま家庭での消費につながるよう、強く意識してきた。
家庭用の市場では、日本人の賃金低下から価格の安い発泡酒や新ジャンルの商品ばかりが売れるようになったが、アサヒだけは単価の高いビールを継続的に販売することに成功している。これはスーパードライを擁するアサヒならではの戦略だったが、これが今回のコロナ危機で逆回転を始めた可能性が指摘されている。
●アサヒに“起死回生”のチャンスも
居酒屋は、大きな声で会話をしながらお酒や料理を楽しむ店舗であり、3密回避が大前提のポストコロナ社会では、業績の回復がもっとも遅れる業種の1つと言われている。もし居酒屋の市場が長期にわたって回復しなければ、業務用と家庭用を連携させるアサヒの戦略が根本的に崩れてしまう。
家庭用商品のブランディングをゼロから手掛けるには多くの労力とコストがかかるため、仮に今から戦略を転換しても、その成果が出てくるまでには時間がかかるだろう。
だが、アサヒにとって今回の事態が八方ふさがりなのかというとそうとは限らない。10月には酒税法の改正が予定されており、ビールと発泡酒は1リットルあたり20円の減税に、一方、新ジャンルは28円の増税になる。つまり今回の税率改定は、単価の高いビールに圧倒的に有利である。
これまでビール各社は顧客の購買力の低下を背景に、不本意ながら新ジャンルを拡大してきたという面がある。もし、来年以降の主戦場が再びビールに戻ってくるのだとすると、家庭用の市場においてアサヒが有利になることも考えられる。
減税を機に家庭用ビール市場で新しい製品展開ができれば、巻き返しのチャンスは十分にある。アサヒほどではないにせよ、各社とも居酒屋という大きなチャネルを失ったのは同じである。今回のコロナ危機によって、ビール各社は戦略の仕切り直しを迫られることになるだろう。