人は空を見上げて何を思う? | 家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。

家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。

なれない環境でまさにパプアニューギニアに来ている感じです。
他のページで小説書いてます。
よかったら遊びに来てください。

https://ameblo.jp/yuki-matuda

猫部屋に入ると臭いが充満している。

そこには大和が猫トイレの前で佇んでいた。

「あなたうんちしたね」

不自然に盛り上がっている猫砂を掘ってみると

埋蔵されているお宝が出てきた。

それを袋にいれ処理をする。

リビングへ私の後にぴったりとついてくる大和と一緒に戻ると小町さんと妻が居た。

妻にトイレを片付けた事を伝えると私の横からするりと抜け出し、

近づく大和を抱きかかえ妻は言った。

「大和くんは快便でかっこいいね」

ほほずりする妻を見て思った。

これ人間の男子がされたらどんなに恥ずかしい事だろう。

 

そんな妻は今風邪で苦しんでいた。

「あなた薬のみなさいよ」

しかし妻はそれを拒む。

「あなた風邪引いたときいつも薬飲まないんだから・・・」

妻は滅多に薬を飲まない。

「だって自然に直るのが良いってお医者さんも言っていたもん」

また何かの番組で見たのだろう。

「良いですか知恵さん、人間には文明と科学があります。

その恩恵を受けて高度な生活が出来るから現代人は長寿なのですよ。

そう思いませんか?」

「わかっているけど・・・なんか嫌なのね」

妻の辛い顔を見ている方が私は嫌なんですが

「漢方とか買ってきましょうか?」

「いや結構です」

この人昭和初期に産まれていたら鉄腕アトムの否定論者になっていただろうな。

そんなことを思いつつ、出来る限りの事をしてあげたいと思うのが夫の役目。

暖かいホットミルクを用意した。

妻の前におくと私の方を見ていった。

「注文していません」

「つまんない言葉を覚える前に良いから飲みなさい」

やや強引では有るが妻にミルクを飲ませた。

「大和くんはなんでいつも健康なの?おかあちゃんに教えてよ」

大和は妻の膝上から逃げ出そうともがいている。

そしてお昼を迎えた。

私は自室からお昼ご飯を作ろうとリビングに移動した。

ソファに寝転ぶ妻にお昼何食べますかと伺うといらないと返事が返ってきた。

食欲もなさそうだ。

仕方が無いので私はうどんをゆでる事にした。

私が玉子かけうどんを食べてると妻はおもむろにおき出し、床に座った。

「私も食べようかな・・・」

「良い兆候です。」そう言って私はもう一人前、作る事にした。

 

「大和くん私元気になるからね。このうどんを食べてでも元気になってみせる。」

今自分は南北戦争の中にいると思っているらしい。

「なんか身体から毒を出せば良いのよね?大和くんみたいにでっかいの出せば良いのかしら?」

「あの知恵さん、今食事中ですからやめて頂けますか?」

「なによ!夫婦でしょう。分かち合うものよ。旦那さん誓ったでしょう」

神は品をなくしてまで共にしろとは言っていないはずだ。

仕方ないので私はテレビに集中して食べる事にした。

お腹があったまったせいか妻は突然トイレに駆け込んだ。

しばらくしてトイレから怒号が聞こえてくる。

 

心配になってきたのでトイレの前でノックをした。

「知恵さん、大丈夫ですか?」

すると騒ぎは治まり、ジャーッと流す音が聞こえた。

そして妻はトイレから満面の笑みで出てきた。

身体からけっこうな毒を排出したものと伺える。

最近テレビでこういった笑顔は見なくなったな~。

そう感じていると妻はドアを閉める時振り向いて叫んだ。

「流れちまいな!くそ野郎!!」

なんて乱暴な、お前は反社か!!平和は気持ちは遠くへ羽ばたいていった。

たしかに言葉は間違えていないがちょっと乱暴すぎませんかと妻に伝えると

「旦那さんは今まで私が奴から受けた苦しみを知らないのよ!!」

「え?そうなんですか?でもあなたの一部ですよね?」

「あんな汚い物一部じゃないわよ」

「いやいやいや、一部ですよ。あなたの身体の中にいたわけですし、同じ37.3度の体温を持っていた訳ですから」

「じゃあ、旦那さんはトイレ流す時、いままでありがとうとかお礼言ったりするわけ?」

さすがの私もいちいち流すたび、ありがとうとお声かけはしていないし、ましてやヨイショしたりもしない。

どうして私がなかなかのお色ですね、今日の香りもまた良い意味で強烈ですなぁ~などと言うとでも思っているのか?

どうあれ、すっきりした妻はまたリビングで大和と小町さんと遊び出した。

「ねえ、大和くん調子の悪いお母ちゃんみて嫌いになった?もしなったらお母ちゃん泣いちゃう」

大和を高く掲げて大和に問いかけている。

その姿を見て私は言った。

「私は知恵さんが調子悪いのは好きじゃないですよ。心配ですし・・・」

すると鋭い視線が私の身体を突き破った。

「旦那さんが私の事嫌いになったらぶっ殺すからね!」

この差はなんなのだろう、ワトソン君。

そして妻はなぜか大和を下ろしジャンプしだした。

つられて大和も妻のそばではねている。

昼間からアホ親子を見つめている私は思った。

私の人生とはいったいなんなのだろうか。

そして妻よ、教えてあげよう人間は身体が軽くなっても空を飛ぶ事は出来ないのだよ。

そしてその様子をいつも不思議そうに小町さんが見つめている。

 

まあ、元気になったから良いかと結果オーライである。

私は静かに食器を片付け洗い出した。

水道から出る水の音は妻と大和のジャンプする音にかき消されていた。