Kurage   「海月

 

 脳味噌がブヨブヨ脳漿の海に浮かんでる。まるでゼリーだ。それどころかクラゲだ。
 クラゲ…水母…海月…闇の海に漂うコンニャク…クラゲなし漂える海の雲…

 

 海中をゆらゆら漂う海月を見るともなしに見ていると、幻想的な気分に陥っていく。濃厚な非現実感の純粋結晶が舞っている。
 海水へ姿の見えない何物かが飛び込んだ。
 空中にあっては全くの透明体。風さえ柳のしなるように避けていく。

 そいつが或る日、海に飛び込んだのだ。


 自殺? それとも、ただの気紛れ?

 

 海中にあっても、そいつの姿は見えない。
 ただ、形は分かる。海に沈んだときの水流、次々に変幻する泡の行方。
 やがて、ついにそいつが姿を現す日が来た。

 

 海月というのは綺麗すぎる表現。
 月の光が海に照り、月の形の影が海に漂い、あまりに海が月に見惚れすぎたものだから、ついには、海に月の精が舞い降り、海月という命の塊へと結晶したのかも。

 

 全く逆に、満月の夜、月が何気なく下界の海を見遣ると、そこには眩いばかりに美しい影が。見入っているうちに、或る日、それが我が姿なのだと悟る。そして、凪の時の水鏡のような海に映る我が月影に見惚れ、いつしか海月へと結晶してしまったのかも。


 月は案外、ナルシストなのかもしれない。

 

 でも、良く見ると、やはりそいつは姿を日の下に晒したくなかったのだろう。
 人の目に見えたそいつは、そいつと思ったそれは、実はそいつが海中で泳ぎ漂ううちに身に纏った透明な衣だったのだ。


 そいつが波に、海に、泡に刻み込んだそいつの記憶だったのである。
 命は目に見えない遠い記憶。月の精の結晶、それが海月。

 

                    (07/05 02:48) 

 

[拙稿「水母・海月・クラゲ・くらげ…」参照。画像は、「クラゲ - Wikipedia」より]