遠い昔のこと。あれは林間学校でのことだった。有峰の青少年の家だったろうか。
友達のいない俺は、キャンプファイヤーの焚火騒ぎの輪を外れ、一人、展望デッキの片隅でコンクリートの塀に凭れて真夏の夜空を眺めていた。
時間は覚えていない。食後のひと時だったかもしれない。遠足の類いは大嫌いだった。どんなグループにも入れない俺は、一日をどう過ごすか、ひたすら持て余してしまう。誰かに会いに行くとか、用事を果たすため急いで何処かへ向かうとか、トイレを探しているとか、とにかく孤立していることを悟られないように懸命だった。
でも、遠足は夕方には帰宅の途に付く。それが林間学校となると、一晩中、居場所探しに汲々とする。キャンプファイヤーの輪の中に紛れていれば誤魔化せそうなものなのに、何か遠心力のようなものが作用してか、いつの間にか弾き出されてしまったのだ。
飛ばされた挙句、夜陰に紛れて自然の家の裏手の階段を登っていた。みんなが宿泊の大広間に集まる頃合いを見計らっていた。それまでをデッキで過ごすことが出来ればいいのだ。
夏の夜空は凄みがあった。眼下には有峰湖が見下ろせるはずだったが、深い森の中の濃紺の広がりがそれとなく湖を感じさせているだけだった。それより空だ。方角など分からない。無数の星がキラキラ煌めいていた。眩い! しかも流れ星が一つまた一つと、途切れることなく夜空を一閃し続けていた。
信じられないほどの星々たち。そして祈る暇など一切与えないほどに、絶えることなく現れては夜空に鮮烈な傷を一瞬刻んでは消えてしまう流れ星たち。
祈るどころか、息を継ぐのも忘れそうだった。息を吞むとはあのことだった。孤独を託つことすら忘れさせていた。俺は流れ星なんだ。広大過ぎる宇宙空間を過る一つの逸れ星。束の間の命の輝き。焚き火なんて目じゃない。
一瞬、流れ星が夜空を外れて地上世界に突き刺さる! と確信させる瞬間すらあった。
星の矢が地上に、いや俺の脳裏に突き刺さる。
突き刺さった後はどうなるのだろう。俺の脳髄の中で星屑となって煌めいてくれるならどんなに!
数知れない流れ星を眺め続けた。心に浴び続けた。無数の星屑を脳裏に溜め込もうとしていた。新たな宇宙が俺の中で生まれる!
そのうち眼下遠くのキャンプファイヤーの火が消え去り、みんなが散会し三々五々施設の中に吸い込まれていくようだった。
俺も階段を慌てて駆け下りてその雑踏に紛れていった。仲間の一人を装うことは決して忘れない。俺も仲間だったのだ。星屑の欠片。誰もが星屑に違いないのだ。何が何だか分からなかったけど、星屑の一片となって下界の中に紛れ込めた気がした。それは流れ星のお陰だったのだろうか。
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