Reiiji  「四次元の世界旅へ

 

 やたらと曲がりくねった路地だった。おや? 天井らしき蓋が覆っている…。
 路地に迷い込んだんじゃなく、何処かの廃墟…ビルの中なのか。階段は上にも下にも続いている。踊り場らしき狭い床に居るようだ。
 時計とは逆方向に螺旋を描く階段。昇るたびに踊り場には半端に締まった扉が目につく。扉を潜って闇の向こう側へ忍び込むべきか。

 

 躊躇っていると、ふと、踊り場って言葉が気になった。誰だったかに、「西洋で階段を折り返す際に女性のスカートが揺れ、ダンスを踊っているように見えたという説が有力視されてい」って聞いたことがあったような。


 不思議な螺旋階段だ。心柱も支柱も、それどころか周囲の壁による支持もない。空中浮揚している? なのに踊り場だけはちゃんとある。現にしっかりした床を踏んでる感がある。


 すぐそばに、そう目の前に中への関門がある。踏ん切りを付けて中へ。そこにこそ世界がある。みんなのいる世界だ。


 けれど俺には勇気がない。こんなに盤石な床に支えられているってのに、下手に闇の世界へ飛び込んだりしたら一体どうなる。床なんてなくてだだっ広いだけの空間かもしれないじゃないか。あるいは籠のないエレベーターかもしれない。踏み出した途端、奈落の底へ吸い込まれていくやもしれない。


 だったら中空に漂うような捻じれた時空に留まっていたほうがましかもしれないのだ。
 でも本当に螺旋階段なのか? 誰がそうだと云った。嘗ては階段だったが今はただの名残りかもしれない。痕跡は床だけ。階段だと信じている俺の根拠のない自身。


 逡巡している間にいつしか足場がグラグラ揺れてきた。というより、ふわふわしてる。それともザラザラしてるのか。ああ、あまりにあやふやだ。螺旋というのは俺の思い込みで、実はグルグル自転してるのではないか。あるいは既に雲の上に載ってる?
 寝入る前に觔斗雲(きんとうん)で世界を巡る漫画を観てたからか。


 ああ、ますます回転が速くなってきた。またメニエル発作が始まったのか。俺の四次元の世界旅に終わりはない。

 

 

[画像は、松本零士作『四次元世界』(小学館eコミックストア)「階段の踊り場の必要性とは? 設置する意味や寸法、活用法など - DAIKEN - 大建工業」など参照。]