Suzume_20230919234301

 吹雪いていた。家の中にいるはずなのに猛吹雪だ。雪の粉が顔面に叩く。冷たい! 氷の礫。
 が、何故かまるで痛くない。冷たくもない。まして寒くなんかない。まるで浮き粉だ。それとも小麦粉なのか。微かに香りさえ漂ってくる。表面の光沢が反射し合って眩しいほどだ。

 粉塗れ。昨日すれ違ったミラコレパウダー塗りまくりの女の顔面。いや今の俺は全身がボディパウダーに覆われてる。それとも防腐剤混じりの布に包まれる。目が明かない。口が開けられない。埒が明かない。
 やがて純白の粉塵は微かに正体を現してきた。それは砂だ。きっと砂の女の呪いだ。砂の女の怨念の礫だ。今になって俺に襲い掛かっている。


 だがそれも勘違いに過ぎなかった。俺の中の茫漠たる空虚が現実を希っての空想だ。礫が叩くほどの現実を欲している。
 粉塵は実は俺の成れの果てだ。四次元時空に迷い込んだそれが寸刻の夢を奏でたに過ぎない。
 肉体が崩壊していく。血肉が骨が粉微塵になる。口腔に吹き荒れる絶命の吐息。乾き切った脂が渦を巻き、粉砕された内臓が蜷局を巻いてミンチになって吐き出されてる。


 夢に違いないのだ。ただ目覚めてくれないのが困る。
 明けない夜。暮れない時。際限のない転落。転がった先の沼地さえ今は干上がっている。何処かにそれは留まるだろうか。それともローリングストーンのまま陽は上がるのだろうか。
 それの中の命は消えてない。魂は潰え去っても負のエネルギーが瞋恚(しんに)と化して、そう這い蹲ってでもこの蒼白の世界を彷徨うだろう。
 そう、旅は始まったばかりなのだから。 

 (画像は、拙稿「つがいのスズメが内庭に」より 09/19 23:35)