過去最大となるたばこ税の増税が固まった。
2010年度の税制改正大綱で、1本当たり8・74円のたばこ税を1
0月から3・5円引き上げることが盛り込まれた。需要減の影響を補うた
めの値上げ分も含めると1本5円、1箱100円程度の値上がりが予想さ
れる。
「牛丼が290円の時代に、たばこ1箱400円という価格は結構な打
撃」(フィリップ モリス)と、メーカーは危機感を募らせている。
1998年以降、3度の増税を経験したたばこ業界。06年に1本1円
値上げしたときは、販売本数6~7%の減少要因となった。だが今回は1
本5円の大幅値上げ。「需要減少は未知数」(JT)と影響は計り知れな
い。
さらに、これまで自民党政権下で実施された増税とは目的も変わった。
初めて「健康促進」という意味合いが込められたのだ。
現在、日本のたばこ産業は財務省が管轄する「たばこ事業法」の下で調
整が図られている。これは「たばこ産業の健全な発展を図り、もつて財政
収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展」を目的とした法律。あくま
でも増税は、税収確保のためだった。
しかし昨年末に閣議決定した税制改正大綱には、「国民の健康の観点か
ら、たばこの消費を抑制するため、将来に向かって税率を引き上げていく
必要がある」との文言が記された。たばこ事業法の改廃も見据えている。
中長期で段階的に価格が上昇する可能性があり、一時的な打撃で終わりそ
うにない。
当然、たばこメーカーには経営戦略の練り直しが迫られる。「(85年
の)民営化後は23工場だったが、11年3月には6工場まで減る予定。
だが今回の増税で、さらなる閉鎖や人員削減も選択肢の一つとなる」(J
T)。国内販売本数は年4~5%のペースで減少が続いているが、これに
拍車がかかるのは間違いない。
政府は国税で1232億円(11年度)の税収増を見込むが不透明だ。
だが医療経済研究機構が行った調査では、たばこの害による医療費の増加
や労働力喪失などの社会損失は7兆円超との試算もある。
国立がんセンター研究所のたばこ政策研究プロジェクトリーダーの望月
友美子氏は「現状の税収2兆円と比較すると、7兆円の損害は累積赤字状
態。すでに財政確保というたばこ事業法の目的は損なわれており、見直し
は当然」と指摘する。
英国やフランスと比べると、日本の1箱400円はなお安いとの声もあ
る。政権交代で日本のたばこ行政も、大きな転換期を迎えている。