【鬼のいわや】_記録NO.9478
「鬼の窟屋(おにのいわや)」を知っているだろうか?
いや、誤解してはいけない。「岩屋(いわや)」ではない。
本来は、「窟屋(いわや)」と記すのが正確だ。
岩ではなく、"窟"——すなわち、亀裂、断層、あるいは地殻の歪みに生じた空間。自然が吐き出した闇の裂け目。
その「鬼の窟屋」は、かつて人類のアクセスすら困難とされた山域、
今や地図にも記されないゾーンデルタ—-通称【D-区画】の奥深くに存在する。
そこに通じる通路と呼べるものは、道幅わずか5メートル程度。
左右は、まるで異星の残骸のような巨岩に挟まれている。
通路に足を踏み入れた瞬間、あらゆる方向感覚が曖昧になる。生きて戻れる保証は、無い。
巨岩の高さは目測30〜50メートル。正確な数値は不明。測量機器はすべて内部で機能停止しているのだ。
上空には空があるはずなのに、その蒼は届かず、わずかに樹木の枝が揺れる影が、
かろうじて「外界」の存在を思い出させる。
だが、昼夜の区別も曖昧なその空間では、時間の流れすら捻じ曲がるのだ。
「ここは……どこだ?」「なぜ・・・ここに居るのだ?」
大阪●●大学の生態学教授はこう述べた。
「左右を巨大な岩に挟まれたあの空間には、地球上でここにしか存在しない固有種が数十種、
確認されている。中には、DNA構造が既存の分類体系に適合しないものも含まれている」
私は進んだ。その細く、果ての見えぬ回廊を。
そして、異変は起こった。
手足にチクチクとした刺激。
やがてそれはジンジンとした痛みに変わり、皮膚の下で何かが動いているような錯覚すら覚えた。
下を見る。棘のようなものが、皮膚に実数に突き刺さっている。だがそれはただの植物の棘ではなかった。
目視できるほど巨大なトゲ。それは三角錐の形状をしており、
抜こうとすると——まるで生体折り紙のように、内部からパタリと展開するのだ。
その構造は刺入時には細く、容易に体内に侵入するが、一度侵入すれば逆に拡がり、組織を切り裂いていく。
完全に"攻撃型"の構造だ。生物兵器のように。
私は慌てて、応急処置のための「アルコール消毒」を試みた。が、装備は持っていなかった。
次に私がしたのは
小便で消毒を試みようと、ファスナーを下ろしたその時。
——目が覚めた。
夢だったのか。
いや、夢であってほしいと願うのかもしれない。
私はトイレへ向かう途中、ふと思った。なぜ、【鬼の窟屋】などというものの夢を見たのだろう?
このブログを書く前に調べたところ、
日本各地には「鬼の岩屋」「鬼の岩屋古墳」「鬼の窟屋」などと呼ばれる場所が複数存在しているらしい。
ただ、私が確かに足を踏み入れた【いわや】は— なんだったのだろう?