■「白衣の天使」を「死の天使」に変えるのは誰か!? | 韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!

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ポッドキャスト韓国語マガジン“サランヘヨ・ハングンマル”の編集長が、韓国と韓国文化の見つめ方を伝授します。


韓国での映画ポスターです。「前代未聞の衝撃実話!」
「養老院老人17人心臓停止、児童病院嬰児7人毒物死亡、初めから犯人は決まっていた」


前回の映画『Spotlight』(トム・ マッカーシー監督)に続いて、やはり韓国で観た重いテーマの作品をご紹介してみようと思います。というのも、少し前に、日本で市民参加の裁判員裁判によって死刑が宣告され、それが初めて執行されたというニュースがあったためなのですが、これはそのことについて少し考えさせられる映画なんですよね。


やはり衝撃的な実話をもとにした作品であり、実は昨年の第17回ソウル国際女性映画祭で上映されて、韓国では話題になったものなのですが、オランダ映画の『Lucia de B.(英題:Accused、韓国題:被疑者~消えた証拠)』(パウラ・ファン・デル・ウースト監督)です。米国アカデミー賞の外国語映画賞のオランダ代表作にもなっていました。



●「冤罪」は「ある」という現実


結論からいうと、本当に「冤罪」というものはふつうに「ある」という怖ろしい事実を実感させる作品です。


主人公の看護師ルシアは、誰よりも患者のことを思い、困難な状況にある患者たちを率先して世話するベテラン看護婦だったわけですが、仕事に投入するあまり、他の看護婦たちと仲良く交わることをしなかったことや、担当医師自身のうつ病によるミス、あるいは合併を目前にした病院内のいざこざなどが重なって、結果的に7つの殺人と3つの殺人未遂の罪の被疑者となり、いきなり終身刑を宣告されてしまいます。


その疑いの根本的出発は、単に彼女が看てきた患者があまりにも多く亡くなっているという事実。つまり看護師の数と亡くなった患者の数をみれば、担当になる患者のうちで平均何人くらいが亡くなるものだという数字が出るわけですが、彼女の場合は、看た患者のほとんどが亡くなっている。「これは何億分の一の確率でしか起こり得ないことだ」というわけです。


それで彼女の家に捜査が入り、発見された日記帳に「私に強迫神経症があることは人に知られてはいけない」という言葉があったとか、夜勤の時に同僚看護婦に「若い頃に売春をしたことがあった」ともらしたとか、看護師の実情をよく知らない病院の責任者が証言に立った、とか、さまざまな状況が重なり合います。


そのうち、マスコミは彼女を犯罪者とほとんど決め付け、「白衣の天使」に絡めて「死の天使」という言葉まで生み出し、それらの世論に影響されて当然のように有罪判決が下ってしまう、という法廷劇を描いています。そこにおける最も重要な問題は、映画を観る観客の私たちも、いつの間にかその状況に一緒に流されてしまっているということに気づくことです。


しかし、これはすべての容疑の出発になった、「一人の看護師当たり担当患者がそれほど多く死ぬ確率は何億分の一だから」などといった予想の立て方自体が間違っていたわけです。それは、看護師の中で最もベテランで責任感が強い彼女が、死を控えた最も危険な患者ばかりを率先して担当していた、というだけだからです。



●死刑が残る先進国は日米だけ


そのように、あくまで材料の立て方と論理の組み立ては人為的なものです。これは人間が神ではないということ、必ず間違う存在であるということの証明であり、それゆえに、私たちの日本にいまだ死刑制度が生きているということの恐ろしさを警告しているものではないか、と思いました。事実、日本でも1980年代には3件も、死刑囚の冤罪が明らかになった、ということがありましたし、最近でも袴田巖さんの冤罪問題が記憶に新しいです。


アムネスティインターナショナルによると、世界で通常犯罪の「死刑」が事実上廃止されているという国は、世界の7割、140ヵ国に上るそうです。韓国も、「死刑」は金大中政権以来、もう20年近く実行されておらず、事実上の死刑廃止国に分類されています。また、2014年の執行国は22ヵ国であり、先進民主主義国で死刑を行っているのは日本と、米国の一部の州だけだということになるそうです。


映画の題名『Lucia de B.』は主人公の看護師の名前です。監督は女性ですが、一人の平凡な女性に起こった衝撃の実話を、むしろ美しくすら感じられるほどの丁寧で繊細な筆致で描き、観客をどんどん引き込む演出に成功しています。日本ではいつどのように観られるものなのか分かりませんが、お勧め作品として、もしよければ心に留めておいてください。



【あらすじ】 ハーグにあるジュリアーナ小児科医院に務める看護婦ルシア・デ・ベルクは、2003年に4つの殺人と3つの殺人未遂(2004年にはそれは7つの殺人と3つの殺人未遂になった)で終身刑を宣告され、彼女は「死の天使」として注目を浴び、オランダを騒然とさせた。しかし、6年以上服役した後、「殺人はなかった」ことが証明され、彼女は釈放される。実話に基づく作品。













映画『Lucia de B.(英題:Accused、韓国題:被疑者~消えた証拠)』(パウラ・ファン・デル・ウースト監督)。

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