今月の初め、この映画『バービー』(イ・サンウ監督)を見終わって、「キジも鳴かずば撃たれまいに」という言葉を思い出しながら、寒い冬の始まりが、さらに寒くなりました。
ただし、映画としてはとても優れていて、何より私自身が大ファンである、2000年生まれ、若干12歳の大物子役キム・セロンちゃんの存在感とその表現された思いは心に残るものでり、それが重いドカ雪のように心にのしかかったのを覚えています。
セロンちゃんデビュー作である『旅行者(邦題:冬の小鳥)』(2009)では、彼女は、お父さんによって孤児院にあずけられ、やがてフランスに養女にもらわれていく9歳の少女でした。『アジョシ』(2010)では、臓器売買業者によって母親を殺され、自分もつかまって臓器を奪われそうになった10歳の少女でした。この夏に公開された『隣人』(2012)では、継母と互いに仲良くなろうと努力する過程で殺人鬼に殺され、それでも霊となって継母との関係を取り戻そうとする12歳の少女でした。
それに続くこの映画の主人公スニョンは、それらセロンちゃんがこれまで演じてきた、悪い大人たちに翻弄されていくかわいそうな子供、という役の集大成のような妹を持った、その姉の役ということになります。
妹の身の上が誰よりも分かる立場だからだと思うのですが、セロンちゃんの演技は今回もまた、演技ではなく、俳優ではなく、ましてや子役でもない、まったくの主人公そのものとして生きている本人のようにしか見えません。それら一連の役歴を、あたかも輪廻転生の生を何度も生きるかのように通過してきた、その人生を生きている一人の子供のようです。
イ・サンウ監督は、キム・ギドク監督のもとで演出を担当してきた人物であり、これまで『アボジは犬だ』(2010)、『オンマは娼婦だ』(2011)などの衝撃的な作品で、破格的社会告発映画を世に出してきた人物ですから、この『バービー』が特別に残酷な映画だというわけにはならないでしょう。というか、話の内容自体は悲惨であっても、映像は実に美しい、夢の世界そのものを演出しています。
果たしてキャッチコピーのとおりの「2姉妹の残酷童話」であり、「夢の国から来た残忍な招待」なのです。
【あらすじ】 浦項の海岸で民泊宿を切り盛りし、手作りの携帯ストラップを売って自ら生計を立てている幼いスニョン(キム・セロン扮)には、ソーセージの好きな知的障害者の父と、バービー人形になりたいと願う、体の弱い妹スンジャ(キム・アロン扮)、厄介者の叔父のマンテク(イ・チョニ扮)という家族がいる。母親はソウルで交通事故で亡くなったという。
そこにスニョンを養子にしたいという米国人スティーブと、その長女バービーが訪ねてきた。 叔父のマンテクが金ほしさに、半ば強制的に養子縁組を進めて姪を米国へ送ろうとしているのだ。しかし、もともとアメリカに行きかったスンジャは、スニョンの代わりに自分が養子になりたいといい、それを聞いて、アメリカに行けばスンジャの願いがかなうと考えたスニョンは、自分の代わりにスンジャを養子にしてあげてほしいと頼む。
その過程で、心の優しいスニョンと親しくなったバービーだが、父の隠されたたくらみを知って大きな衝撃を受ける。
セロンちゃん以外のどの俳優の演技もとてもよく、脚本も音楽も撮影も悪くないと思うのですが、最後になぜか編集でカットのつなぎがぎこちなくて、それだけが残念でした。
話の内容があまりにも悲しく救いがないので、せめてフィクションらしく美しく編集してもらいたかったです。あるいは、わざとぎこちなくして、フィクションとして簡単に盛り上げない、つまり泣くに泣けないというリアルな悲惨さを演出したのだとしたら、それはまたそれで作品性なのかもしれません。
いずれにせよ、何ともいえない韓国の海沿いの町で起こる一つの悲劇を、風景の中に染み渡る潮風のように、美しく残酷によく描いていました。
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