■ゴッホが描いたリアルな世界 | 韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!

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ゴッホ展


ソウルで見に行った、数少ない絵画展の中にゴッホ展があるが、本当にゴッホの絵ほど私の魂を揺さぶる絵画はない!


幼い頃、実家のある札幌でも一度、ゴッホを見ている。油彩が趣味の母に連れられて行ったのだが、その日以来、我が家の階段には、『星月夜(The Starry Night)』が掛かり、上りつめた先には『ひまわり』が掛かっていた。


ゴッホは、「19世紀オランダの後期印象派の代表的画家」ということにはなっているが、実際のその人生は、苦しみに満ちた悲惨なものだった。牧師になる夢を抱いて神学校に行ったが、貧しさで学業を放棄。27歳で画家になるが、いっこうに売れず、幸せな家庭への夢も、ひどい2度の失恋で無惨に打ち砕かれる。ゴッホに最初の精神不安定の兆候が現れたのは、1888年。翌年、ゴッホは自発的に精神病院に入院、一度は治るが、やがて再発、1890年7月に37歳の若い命を、自ら絶ってしまう。


しかし、この晩年の2年間に描いた200点を超える作品こそ、ゴッホの最もすばらしい作品群とされているのだ!


それは情熱的で、確かにその技法は印象主義のそれでありながら、後の表現主義(※作品に感情や思想を表現する手法)を予告するような、内から湧き上がる美しさが秘められていた。何より、その時のゴッホの目には、まさに世界がそのように見えていたのだ。それは精神を患っているとされる一人の画家が見た、ありのままの宇宙。その主観の世界が、私たちの魂を揺さぶるのである。


我が家の階段を上ろうとするといつも目の前に現れる『星月夜(The Starry Night)』。今も目に浮かぶその夜空は、空っぽの空間などではなく、くねくねと連なる星と月の光の群れのうねりの中に存在していた。あたかも、東洋思想では「真空」というものが存在せず、宇宙は「気」によって満たされているというように、ゴッホの周りの空間は光に満たされていたに違いない。


そこに立ち上る杉の木! 曲がりくねった空気の中に、炎のように自らの存在を燃え上がらせる枝々の動きは、むしろ東洋の「気韻生動(きいんせいどう)」のリアリティを感じさせる。


いずれにせよ、これらの世紀の傑作が、まさに精神病院の中で描かれたということだ! その事実を考える時、私の心に一つの疑問が湧きあがってくる。いったい、健全な魂とは何だろうか。


彼を病院に閉じ込めている私たち現代人の精神よりも、彼自身の内なる魂の叫びのほうがどれほど美しく、人々を感動の中に解放できる力を秘めているか!


『星月夜』を描くゴッホを歌った有名なポップス、ドン・マクリーンの『Vincent』の歌がある。この歌は、「ゴッホがこの絵を通して人々を自由にしようと身もだえした」と歌う。


まさにそのように、限りなく自由な感性が表現された芸術作品の中で、私たちの束縛された心は自由を得る。


それはおそらく、西洋というものを通して、私たちの中に入り込んでしまった「理性」という束縛だろう。アリストテレス、デカルト、カント、ヘーゲル…そこから、今の私たちを規定している大前提は、人間は理性的な動物であり、自分が何をしているかを言葉で説明できなければならない、という決め付けである。


今、私は何をしており、何の目的でしているかということが言葉で説明できなければ、人格崩壊のそしりを受けて自然に精神病院に閉じ込められてしまう。しかし、その壁の中に閉じ込められたゴッホの魂が起こした私たちの解放はどのように説明するのか!


近代の理性主義がつくりだした束縛が、私たちの豊かな「心情」を、無意識のうちに否定させ、不自由に抑圧してしまっている。しかし、理性による言葉は、決してこの世界を説明しない。その背後に隠れた「心情」を、その人の心で感じるために、「伝達の努力」をはかなく繰り返すだけだ。


曲がりくねったヴィンセントの筆致は、そのようなはかない「言葉」のとりこになってしまった私たちの心を、力強く、自由に伸び広がった、リアルな世界に解放してくれるのである。



『Vincent』(抄訳・武藤)


↓ゴッホの絵とこの歌の鑑賞♪

http://www.youtube.com/watch?v=dipFMJckZOM



星がきらきら瞬く夜
あなたはパレットを青と灰色で塗り
私の魂の中の暗闇を知っているその目で
夏の日の外を眺めて


丘の上の影
木と鮮やかな黄金色をスケッチし
雪のように白いリネンのキャンバスに
そよ風と冬の冷気を描いて


私は今、分かるようです
あなたが何を言おうとしたのか


健全な精神を求めて
あなたがどれほど苦痛を経験したか
そして、人々を自由にしようと
どれほど試みたか


人々は聞こうとしなかったし
どのように聞くのかさえ知らなかった
たぶん、今は耳を傾けるでしょう


星がきらきら瞬く夜
明るく燃え上がる炎の花と
紫色の霧の中に渦を巻く雲が
ヴィンセントのチャイナ・ブルーの瞳に映る


色彩はあなたを
穀物が実る黄金色の朝の野原に変え
苦痛に皺を刻み、風化した顔は
芸術家の愛らしい手の下に慰労を受ける


彼らはあなたを愛せなかったので…
しかし、あなたの愛は変わりなく真実だった


そして、心の内側にどんな希望も残されていなかった時
星がきらきら輝く夜に
あなたは、あなたの命を取り去ってしまった
しばしば恋人たちがそうするように


しかし、私はあなたにこのようにいうことができただろう
ヴィンセント
この世は、あなたのような美しい人には
どんな意味も持ち得ないのだ、と


Stary stary night
paint your palette blue and gray
Look out on a summer's day
with eyes that know the darkness in my soul
Shadows on the hills
Sketch the trees and the daffodils
Catch the breeze and the winter chills
In colors on the snowy linen land


Now I understand
what you tried to say to me
And how you suffered for your sanity
And how you tried to set them free
They would not listen they did not know how
Perhaps they listen now


Stary stary night
flaming flowers that brightly blaze
Swirling clouds in violet haze
Reflect in vincent's eyes of China blue
Colors changing you
morning field of amber grain
Weathered faces lined in pain are soothed
Beneath artist's loving hand


For they could not love you
But still your love was true
And when no hope was left inside
on that stary stary night
You took your life as lovers often do
But I could have told you Vincent
This world was never meant
for one as beautiful as you



ひまわり

ゴッホの『ひまわり』


※注…「気韻生動」:中国六画法の一つ。「宇宙的な生命力との調和した振動」であり、「芸術家自身に内在する神妙なる創造的天才性の反響」。