今週の担当は司法書士の木藤です。

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<ローン(債務)の承継について>
相続財産というと「プラス」と「マイナス」があるとよく言われる。現金や不動産などはプラスの財産、一方で借金はマイナスの財産ですね。家庭裁判所に相続放棄をしない限り、プラスもマイナスもどちらも相続をします。

今回はご家族で遺産分割協議をする際によく見かける事例をご紹介します。


<債務も協議により遺産分割できるか?>
例えば、不動産投資をされていた父親が亡くなりになりました。相続人は母親と長男です。父親は不動産投資事業を行う際に銀行にローンを借りており、当該物件にも抵当権が設定されております。

母親と長男は話し合いにより、この不動産投資事業は長男が引き続くので、不動産の所有名義と共に銀行のローンも長男が承継することで合意しました。

さて、この場合に遺産分割として「○○銀行の借入債務は長男の○○が相続する」という内容で問題ないでしょうか?

実務的には、この様な内容の協議書をよく見かけます。当事者の趣旨も良く分かりますので、第三者が見ても誤解は生じないものと思います。しかし、法律的には少々整理が必要です。

判例は、金銭債務については相続開始と同時に各相続人が相続分に応じて分割承継すると解しております。今回の事例ですと、母親と長男で2分の1ずつ自動的に承継をします。よって、承継が完了しているものについては、遺産分割の対象とならないという理解です。

<実務的な対応>
そこで、当事者である母親と長男の目的を果たすためには2段階の構成となります。

(1)相続開始により、2分の1ずつ債務を分割承継

(2)母親が承継した2分の1の債務について、長男が「免責的債務引受」をする。



不動産登記簿の抵当権についても、債務者の変更がこのように2段階で公示されます。(※「根」抵当権の場合の債務者変更については、より論点がございますので、別の機会にご紹介したいと思います。)

なお、この免責的債務引受を勝手にされて銀行が困るケースもあります。例えば、債務を引き受けた方が信用の低い場合です。よって、この免責的債務引受には銀行の「同意」も必要です。それでは、もし銀行が同意してくれなかった場合はどうでしょうか?

この場合は母親は債務者の立場から離脱することが出来ません。対応策としては、母親が承継した2分の1の債務について、長男に「履行引受」(代わりに弁済をしてもらう)などもあります。

マイナス財産の議論はプラス財産の議論と一緒に行われるのが常ですので、遺産分割協議の際に是非ご参考にして頂ければ幸いです。