こんにちは、弁護士の白木麗弥です。

前回に渉外相続シリーズをやります!…って息巻いていたのですが、今日は重要なお話もあるので、その前に相続放棄のお話をしようと思います。相続放棄の基本的なお話は、こちらをご参照ください。


相続の熟慮期間とは

さて、ブログタイトルに相続放棄の熟慮期間と書きましたが、熟慮期間とはなんぞや?ということをまずは触れておきたいと思います。
民法でいう相続の放棄とは、被相続人(つまり亡くなった方)のプラスの財産もマイナスの財産も放棄しますよ、引き継ぎませんよ、と家庭裁判所に申述して、これを行います。
つまり、借金だけを勘弁して!ということはできませんよ、というわけです。
ということは、プラスの財産とマイナスの財産とを両方考えて、相続すべきか、相続放棄すべきか、はたまた限定相続すべきか(相続財産の範囲内でマイナス財産も引きつぎます)という判断をするわけなのです。
その判断に必要な時間を民法では3ヶ月と決めています。

被災地の熟慮期間に関する新法

皆さんにとって未だ忘れられないあの東日本大震災から、3ヶ月が過ぎました。
そう、3ヶ月です。

しかし、この3ヶ月間に被災者の方が相続について判断が出来る状況にあったとは言いがたいのが現実です。そういったことを踏まえて、例えば日弁連では相続の熟慮期間に関しての会長談話を発表しています。相続放棄の申述に必要な書類である戸籍謄本に関しては直ちに提出できなくても、あとで追加して提出すればいいよという手続はきちんと皆さんにお知らせしなさいというようなことですね。また、熟慮期間自体を1年間にしてほしいという意見書もだされています。

会長談話
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/statement/110607.html

意見書 ←熟慮期間を1年にして欲しいという意見
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/110526_3.html


そして現在、民主党の方で議員立法を検討しているのは、被災地に関しては、12月11日以降に亡くなった方についての相続放棄の熟慮期間は11月末日までとするということのようです。実際法案が成立するまでは内容は正式には決まりませんので、今後の推移を見守っていきましょう。


「相続放棄」の判断期限延長へ議員立法 民主方針(朝日新聞)
http://www.asahi.com/national/update/0606/TKY201106060654.html


熟慮期間の起算点

ところで、3ヶ月の熟慮期間、果たしていつから3ヶ月なの?というシンプルな問題を考えてみたいと思います。
法律ではこのような記載になっています。

第九百十五条  
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2  相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

わかりやすくいうと、自分が相続人になったと知った時から3ヶ月というわけです。
しかし、それを文字通りに考えると、困ったことが起きてしまうことがあります。何も財産なんかないから放棄する必要なんかないわ~と思っていたら、多額の借金が出てきてしまったよ!という場合です。

判例では、この熟慮期間は「相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である」としています(昭和59年4月27日最高裁判例)遠く離れて住んで、長いこと音信不通だったので財産状況なんて知りようがない等、生活状況からして相続財産が認識できなかったのなら判断のしようがないというわけです。


熟慮期間の伸長

お父さんがなくなったので、自分が相続人だと分かってます。
財産があるということも、一緒に住んでいたのである程度なら分かっています。
でも、3ヶ月で借金まではわからない…(T_T)

そういう人は、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることができます。この伸長の申立ては熟慮期間中に行わなければなりませんので、注意しましょう!

詳しい書式は裁判所にあります。
ご不明な点は専門家や家庭裁判所でも教えてくれますよ。