なんて穏やかなお顔だろう。
大声で怒鳴り嫌がらせをする客にちひろは何も言わずに誤った。心配して駆け寄る同僚たち。
「あんなにひどいこと言われてよく我慢したね」
しかし、ちひろは半笑いで「なんかひどいこと言われてましたっけ?」と答えた。
「礼儀を知らない相手に礼儀など必要ない。この女は話が通じない。ただ私に傷ついて欲しいだけ。だったら傷ついてあげない。かすり傷ひとつつけさせてあげない」
ちひろは心の中でそう思っていた。
漫画 「ちひろさん」より
カスハラ(カスタマーハラスメント)という言葉が世間にあふれ出した。
あふれた言葉を何度も繰り返していると、その存在を改めて認めたことになる。「嫌がらせ」「言いがかり」と言われた悪行が、カタカナ用語できれいに装飾される。それは怒鳴りつけられたスタッフだけでなく、怒鳴りつけた本人も同じだ。
怒鳴りつけた人は何と思っているだろう。
「俺は違う。ただ相手を正しているだけ」と言い訳するかもしれないが、正すなら別の方法があるはずだ。気持ちの奥に「(立場の)弱い相手を傷つけたい」という勝手で幼稚な願望がある、これが正解のようだ。
願望は持っても構わない。自分の内に留めておけばいい。でも現実に「人を傷つけてはいけない」、これだけは譲れない。
どんなに自分の「正義」があろうと、これだけはしてはいけない。なぜなら「正義には制限がある」からだ。他人を傷つける正義は正義じゃない。
怒鳴りつけられたスタッフはどう対応するか?
「自分を傷つける礼儀知らずの相手からの言葉は受け取らない」
こんな方法をお勧めする。
カスタマーハラスメントを理性で勉強するのも必要だが、こんな原始的な行動もいいと思う。
受け取らなかった言葉はどうなるか?いまでも宙に浮いてのか?行き場を失った汚い言葉は、言った本人が持ち帰るしかない。そして持ち帰って自分が傷つくだけだ。
でも、相手がどう傷つこうと構わない。私が傷つけたわけではない。勝手に自分の言葉で自分を傷つけている、そんな開き直りも必要だと思う。
「軽やかに暮らすために」をテーマに講演会を実施します。
これからの時代、このテーマが生きるヒントになります。その中で考えたいのが、自分と他人の関係、自分を愛することは同時に他人との人間関係を考えることでもあります。
軽やかに暮らすとは、何も感じない、考えないことではない。泣いて恨んで失望して笑って、それでも軽やかに歩くということだと思う。