ジャズはなんで毎回同じ演奏をしないのか?

即興ゆえに、この曲はこの日のこのテイクが

良いとなってしまいます。

 

 

 

さて「私のお気に入り」

 

マイ・フェイバリット・シングスを紹介します。

この3拍子の名曲はリチャード・ロジャース(曲)

オスカー・ハマースタイン2世(詩)で

ミュージカル「サウンドオブミュージック」の中の

「私のお気に入り」という名前で知られています。

 

これはジャズのスタンダードナンバーとも言われていますが。

そんなもんではない。

1960年代、学生運動の時代にモダンJAZZ世代に

はまった連中やそれを追っかけた私らの1970年世代にとっての

マイ・フェイバリット・シングスと言えば、ジョンコルトレーン。

 

コルトレーンこそがマイフェイバリットシングスでした。

当時、ジャズの先端をいくマイルスデイビスとジョンコルトレーンは

時代をリードする両巨頭でしたが、1964年においてはコルトレーンは

神でした。

 

それまでの、ジャズがコード進行に縛られて目まぐるしくスケール

(音階)を吹き分け弾き分けるBEBOP(ビーバップ)の時代から、

ワンコードで、5音階のペンタトニックや民族的なスケールを延々と
即興(インプロバイズ)していく(モード奏法の)時代に突入。
その先陣を切っていたのがマイルス・デイビスとジョン・コルトレーンです。

 

しかし今さらながら、ジョン・コルトレーン(テナーサックス)は

我々日本人には実にわかりやすいのです。

しかもコルトレーンのジャズにはパフォーマンス性がある。

とにかく、たくさんの音符を一挙に吹く。

何をそこまで吹いて、昇りつめる必要があるのか?

と言うくらい吹きまくる。(シーツオブサウンドと言う)

 

何もわからん私らはただただ、延々と繰り返すその根性と気迫に

圧倒されひれ伏してしまうのです。

常に自分を更新し追及する姿。自分の命を削るように演奏する姿。

ジャズに精神性をもたらした張本人がコルトレーンで、

我々はそういうのが好きなのです。

 

コルトレーンは東洋の仏教や哲学にも影響をうけたようで

繰り返される低音のリズム、うねりはお経のようでもあります。

ジョンコルトレーンの有名なラブ・スプリーム(至上の愛)に至っては

ご詠歌のような歌まで入っている。

そんな瞑想的なジャズの入り口にマイフェイバリットシングスはありました。

行きつ戻りつするスケールと波打つリズム(シンコペーション)と

ピアノの神々しい和音。

これぞトランスミュージックのはじまり。

このマイ・フェイバリットシングスは間違いなく世界を音楽で瞑想に導きました。

 

どの曲でも 10分過ぎてやってくる ドシャ-ン!メシャーン!ガタコ・ガタコ

と舗装されていない道の揺れのようなリズムとサックスの咆哮に心身がやられる。

後年のコルトレーンは魂の叫びとしか言えないようなサックスを吹いています。

 

冒頭にリンクしたのはテナーサックスのイントロで始まる1963年のニューポート

のジョンコルトレーンで、セルフレスネスというアルバムです。

通常この曲はピアノのイントロでソプラノサックスで出てくる。

しかしテナーのイントロがあまりにも良い。

こんな頭サビのイントロで決まるJAZZは他にない!

 

朝出かける前にこのイントロだけを聴いただけで、

全曲聴いたに等しい喜びが生まれる。

お経を知らなくてもマニ車をまわせば、お経のすべてを読んだことになる、

のと同じ。一節読んでお経を閉じれば全部読んだことになる。のと同じ。

 

最終的にはだらだら17分も聴いてられない!

もうこのイントロだけで良いじゃないか。となる。

そんなご利益のあるイントロです。

 

 

 

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通常このコルトレーン・カルテットは

サックス、ジョン・コルトレーン

ピアノ、マッコイ・タイナー、ベース、ジミー・ギャリソン

ドラムはエルビン・ジョーンズです。

ところが、この日はロイ・ヘインズになっていて

これが良かったのです。

 

ロイは90歳を過ぎても現役の

リズムの神。リズムのマイク・タイソン。

ミスター・シンコペーション。

ハードなプッシュが得意な名手です。

 

(私が後年NYに行った時ロイ・ヘインズ氏を訪ねたのは

  もともとはこの演奏に出会ってたからこそです。)

ではまた!