前回掲載した松本謙一さんのインタビューで、氏がハンドビルドの逸品として、グレートノーザンのL-2を紹介していました。こちらに松本さんからお借りした写真が掲載してあります。

 

こちらはBrasstrains.comからお借りしたものです。

 

似たようなロコに、天賞堂が製品化したL-1がありますが、使用範囲を広げるべく、軽くしたのがL-2だそうです。模型は鉄道模型社の武真一氏によるもので、複数のインポーターに提供されたそうですが、実は小生、PFMが1957年に販売したものを持っているのです。

 

小生、1990年の米国駐在以降、米国型のブラスをコツコツと集めてきたのですが、「エコノミーモデラー」を自負するだけに、ブラスのコレクションは、比較的お手頃価格で買えるユナイテッドやカツミの量産品が主です。その中にあってこのL-2だけは唯一、コレクターの皆様から「おっ」と思っていただけるモデルかもしれません。なぜこの模型が手元にあるのでしょう。

 

実はこのロコ、2017年10月に、19,800円でヤフオクに出品されたものです。出品者様のコメントには、このようにありました。「いろいろコレクションしていた方から譲って頂いたもののうちの1点です。詳細などはよく分かりませんので、画像にてご判断頂ける方のご入札をお願い致します。経年による劣化など所々見られます。元箱と中身が合っているかどうか分かりかねます。また、実際に走行出来るかどうか確認できませんのでジャンク品としてご理解願います。」

 

みたことのないモデルだったので、どういうものか調べてみると、えらく価値のある模型のようで、ブラウンブック第3版には1,200ドル、Brasstrains.comには1,800ドルという評価額が書いてあります。

 

実際、今現在でネット検索してみると、こちらのモデルがみつかりました。円が弱くなっていることもあって、すごいお値段です。(以下、画面のハードコピーなので、クリックしても移動しません)。

 

 

さて、7年前のヤフオクの話に戻りましょう。ご承知のとおり、日本で米国型のブラスモデルを集めている方は、そんなに大勢はいないと思うのですが、その分、すごく眼が肥えていて、ヤフオクによいものがバーゲン価格で出品されても、たいていの場合は適正価格か、それに近い額になってしまいます。

 

で、このモデルも最終的にはそれなりのお値段になるだろうなあと、ひやかし半分に限度額30,000円で入札したら、終了直前に30,800円で高値更新されたものの、31,000円で再入札したら、あっさり落とせてしまいました。入札数はわずか「4」なので、競合は1人か2人だったということになります。なぜこれほどまで皆様が関心を持たなかったのか、よくわかりません。ちなみに送料も無料でした。こちらの2枚は当時のヤフオク画面のハードコピーです。

 

 

で、届いたモデルがこちらです。

 

 

天賞堂が晩年の米国型モデルに使っていたような「卵の殻」くらいの半つや消しブラックで、実に綺麗に塗ってあります。

 

美しい塗装もあって、67年前の古いモデルにはみえません。

 

ただし、動輪の塗り方はずいぶんぞんざいなので、プロペインターによるものではないように思います。

 

動輪はメッキされていないので、真鍮の色が目立ちます。タイヤの側面まで黒で塗ったほうがいいかも。

 

煙室はシルバーに塗り分けられています。手すり部分に黒をさしたら、さらにカッコよくなることでしょう。

 

ディカールもきっちり貼ってあります。

 

裏側にはユナイテッドの銘板が貼ってあります。

 

走行系には手が加えられておらず、モーターもオリジナルのものだと思います。

 

テンダーにはリベットが整然と並びます。

 

グレートノーザンのシンボルともいえるロッキーゴートの紋章がありませんが、1907年製造の古いロコなので、考証的にはロゴがないのが正しいはずです。

 

カプラーはフロント、リアともケーディが付いています。

 

いっしょに入っていたパーツです。ウエイトが3個ついていたのですが、ボイラーの中にはすでに別のウエイトが入っているので、関係ない部品かもしれません。とりわけ大きなL字型の2つは、何だかよくわかりません。テンダーに積むのでしょうか?

 

で、走行の調整にはえらく苦労ました。テンダーからの集電が悪くて、どう頑張っても、ぎくしゃくとしか走らないのです。ドローバーが不調なのかと思い(上の写真の右端に置いてあるものです)、ヤフオクで買った汎用品のドローバーに取り換えたのですが、それでもダメです。

 

で、最後にテンダー台車のビスに、小さなワッシャーと短く切った柔らかいスプリングを挟んだら、快調に走るようになりました。古いロコの整備については、いろいろと経験を積んだつもりだったのですが、こんな微妙なことで集電が劇的に改善するのだなあと、すっかり感心した次第です。結構スローも効きます。ただし、ギアノイズの大きさだけは、作られた時期を考えると、仕方ないでしょう。

 

それにしても、黒一色のロコをスマホのカメラで撮影するって、すごく難しいですね。白バックにするとロコが真っ黒になってしまうので、写真ソフトでいろいろ補正してお茶を濁したことを白状しておきます。最後に深度合成のできるTG-6で久々に撮影してみましたが、こちらもイマイチでした。

 

さて、この模型の製作者は松本謙一さんがインタビューの中でおっしゃっていたように、鉄道模型社の武氏です。恥ずかしながら小生、氏のことは全く知らなかったのですが、あつかましくも松本謙一さんにメールでお伺いしたところ、以下のお返事をいただきました。小生の雑文だけだと価値がないので、最後にブラスファンの皆様向けのとっておき情報として、そのまま記載させていただきましょう。

 

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タケ氏は「模型社」のお抱え職人でした。漢字は「武」で名は「直一(なおかず)」と、中尾豊氏から聴いています。中尾さんに「中尾さんの知る限りのクラフツマンで、プロ、アマチュアを問わず最高の技量の持ち主と想うのは」とお訊ねしたところ、即座に「模型社の武直一」とおっしゃいました。

 

中尾さん自身、私は形見に、「現存する日本最古の16番作品」を頂いていますが、そのインターアーバンの窓抜きのシャープさを見ても、物凄い腕前なので、その中尾さんが「日本一」と評するのですから、相当と見てよいでしょう。

 

あくまでもプロに徹して、雑誌など、アマチュア界へは一切顔を出さなかった方です。特に、山崎喜陽氏には一方的な憎悪を抱いていたので、TMSには距離を置いていたそうです。

 

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さて、しばらく続いた米国型の記事ですが、これだと知的好奇心は大いに満たすことができるものの、工作が1㎜も進みません。次回からまた、プロジェクトKAMINADAに戻ります。