今回は朝井リョウさんの小説「正欲」の感想です。
朝井作品については、以前にも「世にも奇妙な君物語」を記事にしました。
「コイツ朝井リョウばっか読んでんなw」と思われてそうですが(^^;
今回この作品を読んだのには理由がありまして。。。
先日、「バキ童チャンネル」の"特殊性癖"を取り扱った動画でこの作品が紹介されていて、、
僕自身もブログでちょいちょい書いている通り、「(フィクションでの)女性同士のバトルシーンややられシーンが好き」という特殊性癖があるので、
同じような境遇の人間として、気になって読んでみた次第です。
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この「正欲」、生身の人間には興味を持てず、「水」に性的魅力を感じる複数の登場人物を中心に、彼らを取り巻く人間模様も描きながらストーリーが進んでいきます。
周囲からおおよそ理解されない癖をカミングアウトできず、隠れるように生きる苦しみの描写が刺さりました。
特殊性癖を持つ側の視点だけでなく、生身の人間に興味を示さない彼らを気味悪がったり心配したりする周囲の人々、つまりマジョリティ側の視点の描き方も丁寧でしたね。
特殊な人々を「この世のバグみたいな奴ら」と唾棄する台詞は、フィクションの小説ながら精神的にきました(笑)
ただ、このセリフを放った登場人物がそう考えるに至った背景も、きちんと描かれている所がすごいです。
また、作中にはYouTuberとして生きていこうとする小学生の息子と、学校へ行って普通の将来を目指させたい父親の確執など、
(この辺りは完全に「ゆたぼん君」を意識しているのですが・・・)
「性癖」だけでなく「生き方」「考え方」全般での、"マジョリティ側"と"マジョリティから外れる側"の軋轢もテーマとしてカバーされていて、かなり読み応えのある作品でした。
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周囲に理解者のいない彼らがSNSを通して、「『水』好きの性癖を持つ者同士」のコミュニティとして、ネット上でつながっていくシーンがあります。
その中の一人、諸橋の独白にものすごい共感を覚えましたね。
同級生達が『誰々の方がタイプ』みたいな話で盛り上がるのには今まで全く共感できなかったけれど、
今は彼らと同じ感覚で『どんな形状の水が良いか』『どんな濡れ方が良いか』みたいな話題で盛り上がれることに嬉しさを感じる独白です。
それまで自分の性癖を理解されずにひたすら隠し続けてきた諸橋が、初めてそれを共有し合える仲間に出会えたシーンです。
・・・これ、自分も全く同じことを感じていて、
今こうしてSNSで、同じような趣味の人と交流したりできているのがすごく楽しくて有難いことだな、と感じています。
他の人からおススメのやられキャラややられシーンを教えてもらったりとか・・・(笑)
(自分もギブアンドテイクで、気に入ったシーンの情報があったらXやブログで発信するようにしていますw)
中には「これは自分の好みとはちょっと違うな」というのもあるのですが、
それも作中の諸橋が言っている「何々の方がタイプ」みたいな感じで、似たもの同士の些細な違いで盛り上がれたりするのがむしろ楽しいですね。
※余談ですが、最初に紹介した動画内でマリオネットブラザーズ井上さんが語ってる
「怖くて厳ついサメが、陸に揚げられて無力化してる所に興奮する」
っていう点、やられシーンともちょっと通じる所があるかなと感じました。
「凶悪で厳つい奴が、ヒロインにやられて情けない醜態を晒す」のと、"力を失う"という点では少し近いかなと。。
自分が10代の頃は、まだ今程はSNSが普及していなかったのと、そもそも僕自身がムッツリ気味の性格だったこともありカミングアウトできなかったので...
ネットはもちろんリアルの友人とも、そういう類の話をしたことはほとんどありませんでした。
「あと十数年SNSが早く発達していて、もっと早い段階から今のように同じ趣味の人とつながれていたらもっと楽しかったんだろうな~」という後悔の気持ちはありますね。。。
作中では佐々木という男が、周囲に理解されない疎外感から自ら命を絶とうとするシーンがあり、、、
さすがにそれは思いつめ過ぎと思いますが、やはり"趣味嗜好が合わず、そういう話題で一緒に盛り上がれる存在がいない"という状態は侘しいものがあるんですよね~
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最後は小説の感想というより自分語りみたいになってしまいましたが...
最初に書いたように、「性癖」だけでなく、生き方全般での"マジョリティ"との軋轢がテーマの作品ですので、
価値観などで周囲と違和感を感じているような人には、絶対に刺さる作品だと思います!