計量経済学における識別問題とはなにか(1) | 不動産鑑定、統計学、文系人間のための数学など

不動産鑑定、統計学、文系人間のための数学など

上野山清久のブログ
 「不動産鑑定と統計学」(同名のホームページも公開中です。)、数学その他に関する日々の学習成果等について「学ぶ側の視点」で綴っていこうかと思います。

 同時方程式(連立方程式)の識別問題を理解するのに悪戦苦闘していましたが、以下の内容を理解することによってようやく光が見えてきたような気がします。

 

 いま、ある財(例えばミカン)の需要と供給について考えます。

 

 需要Q=a+bP・・・(1)

 供給:Q=c+dP・・・(2)

 P:価格、Q:数量(需要量または供給量)

 

 ここで問題です。

 

 いま、ミカンの価格(P)と数量(Q)に関するデータが下図のとおり得られ、これらに回帰直線をあてはめると、右下がりの直線になりました。

 この直線は需要曲線(D)でしょうか?、それとも供給曲線(S)でしょうか?

 私は、価格(P)が下落すると数量(Q)が増加するのだから、需要曲線が正解だと思いましたが、実はこれは需要曲線でも供給曲線でもなく、両者を組み合わせたものと考えるべきなのだそうです。

 そう言われると、確かに(1)式も(2)式も変数P、Qは共通していて、PとQの観測値が得られたからといって、このままではこれらをDとSに区別することはできないですよね(上図の各点は、たまたまその価格で取引が成立した個別の点に過ぎず、それぞれが需要点でもあり供給点でもある。)。

 

 ①、②式を解くと、

P=(c-a)/(b-d)・・・(3)

Q=(bc-ad)/(b-d)・・・(4)

 

 (1)、(2)の同時方程式のことを構造型、(3)、(4)式のことを誘導型といいます。

 構造型:変数(P、Q)間の理論的な相互関係を明示したモデル

 誘導型:内生変数(P、Q)について解の形で表現した式

です。

 

 そして、誘導型の場合は、解(P、Q)は観測値から一意に定まります(私は(3)、(4)式を見て、a~dの値が分からないのに、なぜPとQの値が定まるのかと思ってしまいましたが、PとQの値は観測値として得られるが、その内訳(a~d)までは分からないということですね)。

 

 そして、これらの情報だけでは誘導型から構造型の係数(a~d)の値を特定することはできないというのが同時方程式の識別問題ということになります(例えば、a~dのうち2つの係数の値が事前に分かっていれば、あとの2つの係数の値も特定できるが、この想定はあまり現実的ではないと思われる。)。

 

 

 参考までに、上図のスクリプトを載せておきますので、R(アール)のコンソール画面にコピペしてみてください(私も、こんな図をサラッと作図できているわけではなく、解説書を見ながらあーでもないこーでもないとやっているのです。)。

 でも、こんな面倒くさいことをせずとも、手書きで描きたい図のイメージをスケッチすれば上図に変換してくれるようなソフトがそろそろできてもいいような気がするのだが・・・。

 

x<-c(7000,8000,5000,3000,4000,5000,3000,2000)
y<-c(50,100,150,200,250,300,350,400)
m<-lm(y~x)
plot(y~x,xlab="Q(数量)",ylab="P(価格)",main="ミカンの需要と供給",pch=20,cex=2,xlim=c(0,9000),ylim=c(0,500))
abline(m)