まことに小さい声ですが

   わが阪神タイガース!!

                 

 いまこそ、1985年の阪神タイガースを語りたい。

 38年ぶりの日本一、と賑やかな話だけれど、騒いでいる人の中には、38年前

のコトなど何も知らない人が居る。それでもイイのだ。タイガースファンは

理屈が通らないコトを良しとするヘキがあるのだ。

 いま、私の手許に19857月20日発行の雑誌Numberがある。表紙はトラ柄

の招き猫。そのタスキには〈祝阪神タイガース創立50周年〉とある。

 7月20日発行だから、日本一になる3ヶ月前だ。

 創刊号には、のちのちにまで語り継がれる「江夏の21球」を掲載した、

スポーツ雑誌だ。

 その127号は、阪神タイガース特集号として発行された。

 満員の甲子園球場を見開き2ページに。ライターは阪神タイガースファンと

しても有名なスポーツ評論家の玉木正之氏。曰く

―――いったい何故、20年間も優勝できないでいるタイガースに、ファンは

熱狂し続けるのだろうか―――。

と語り始める。つづくページにはタイガースの主力メンバーの勇姿が20人、

10ページにわたって紹介されている。それぞれ、個性をむき出しにした

イイ写真だ。

 その選手紹介のキャプションの代りが俳句なのだ。

 

    3番バッター、ランディ・バース

   なかんづく勝利の夏ぞオクラホマ      虎酔

    4番 掛布雅之

   暑き夜もバットをしごく孫悟空

    5番 岡田彰布

   朝曇りこれぞ浪速の貌なりけり

 

 伝説になったバックスクリーンへの3連続ホームランのクリーンナップ

トリオだ。それは4月17日。シーズンが始まってまだ4試合目のことだった。

 今でもこの話は、TVのタイガース話で語り継がれる。語るのは3人のうち

の誰か、ではなく、打たれたジャイアンツの槇原投手だ。

 因みに、その翌日、18日の「スポーツニッポン新聞」通称スポニチ大阪版の

1面トップは大騒ぎ。阪神3連笑だ、と。

 そしてその横に、今日の一句。

 

     目覚めたる男ありけり春怒涛     虎酔

 

そしてそして。優勝が決まった翌日、1017日には。

 

     肌寒く勝利の中でふるえけり     虎酔

 

 もうお分かりいただけたでしょう。

 虎酔とは、私の号。タイガース俳句専用の俳号。

 実は1984年から、スポニチで連載を始めた。最初はほんの冗談で、やって

みるかのノリだったのが、一年無事に連載出来たので、もう一年やるか、と。

それが1985年。

 優勝してしまった翌年は、2月、四国の安芸キャンプに取材()旅行まで、

スポニチが招待してくれた。

 岡田選手のキャンプでの実像を間近に見て、この男、本当に野球が好きな

んだな、と実感できたのだ。そのことを、タイガース談義を真面目にできる

仲間に何度か、語ってきた。

 昨年、監督就任のニュースを聞いたとき、ようやくそのときが来た、と思った。

 

 今年の日本シリーズの7試合。

 ほんとうに面白かった。勝った試合も負けた試合も。

 両チーム監督の知恵比べが面白かった。

 小学校を40校余り訪問してきた体験で得た実感、「学校は校長によって変

る」を思い出していた。

 岡田監督がシーズンが始まる前に

「監督・落合のチームと試合がしたかった」

と言ったのを覚えている。

 

 選手で優勝、監督で優勝は、まことに嬉しい。

 リーグ優勝の日、9月14日。久しぶりに〈虎酔〉俳句を作りたくなった。

 でも、出来ない。

 そういえば、38年前、優勝の夜も、苦吟した。締め切りの時間が近くなって

も、まとまらない。新聞社から「まだですか?」と電話がかかってきたのを覚え

ている。

 あの頃は、メールどころかFAXもなかった。俳句は電話で送稿していたのだ。

漢字の説明や、季語の説明をした記憶も残っている。

 

 古い資料を引っぱり出して、いろいろやっていると、ハラリと落ちた一枚に、

虎酔俳句自選10句、なるものが出てきた。

 おつき合いして下さい。

 

     東よりまず一勝と花便り        虎酔

     金沢の袋小路や緑濃し

     九人の悔いそれぞれに青葉騒

     あじさいの中よりぬっとクロマティ

     投げる打つ守る走れる風光る

     花冷えの夜を歓呼のバッテリー

     灯ともして川籐情話と古酒少し

     桔梗の天地は広し一番打者

     水澄みて素手に無冠の誇りかな

     宝刀のフォークきらりと端午の日

 

 古いファンの方なら、誰のこと、とか、勝った負けた日の気持ち、お察し

頂けるかなと思う。

 

 さて、新しいファンの方にも知ってほしい一句は、今年の優勝から5日経った

919日、ようやく出来た。

 

     秋のわが四番打者の泪かな     虎酔

 

 この句は、道上洋三さんに伝えたくて、小さい色紙に書いてご自宅へ郵送した。

 ABCラジオで45年間、毎朝の番組を続けてこられた名物アナウンサー。

今、病気療養中とのこと。「六甲おろし」を歌えない日々を送っておられる。

少しでも元気になってほしい、との思いだ。

 道上さんは、4番大山選手のファンなのだ。

 春の大山。

 夏の大山。

と、好・不調の大山選手を鼓舞してきた。

 そうなのだ。われ等タイガースファンは、勝っても負けても、否、負けて

負けてもタイガースが好きなのだ。

 大リーグなんかに行かなくてイイ。

 甲子園球場でみんなで、下手でもイイから「六甲おろし」を歌いたいのだ。

 

 言い忘れそうになりました。

 日本一になった115日は、ワタクシ・虎酔の85才の誕生日でありました。

イイ記念日になりました。

 ありがとう、阪神タイガース!!