薔薇の花を贈ってから 数日後のこと、
玄関のチャイムが鳴ったので出てみると
彼女が立っていました。

会社で姿を見ることもなく、
話すことも目を合わせることさえ
もう生涯ないんだろうな。
なんて思っていたので、本当に驚きました。

その時に彼女が何を口にしたのかはもう覚えていませんが、
わたしは
「わたしが好きだったのは○○さん(彼女の旧姓)で、あなたではありません」
と言うことを早口で告げ、扉をバタンと閉めました。

鍵は掛けていませんでした。
しばらくしたら彼女が入ってきて
行き場の無い思いを抱えて床に座っているわたしの隣に来て、
無言で暫くの間居ました。

わたしが何か言おうと開きかけた口を彼女は塞いできました。
心の奥では未だ諦め切れていない女性でしたので・・・そのままにしました。
あれほど交わした言葉はもう何の意味も持たなかったようでした。

それが彼女のわたしへの想いの証だったのでしょうか。
それが同じように戸惑っていたかもしれない彼女の優しさだったのでしょうか。
それとも憐れみ?
それが、そうすることがその時は最良の形だったのでしょうか。

女性の気持ちは本当に分かりません。

それ以上のことは(あまり)無かったのですが、
気持ちは少し穏やかさを取り戻したように感じました。

すっかり陽の翳った道を彼女の住む街まで言葉少なく、
他人の顔をして送って行きました。
もうおおっぴらに表を歩ける仲ではないので・・・。

帰りの電車の中では張り詰めていた何かが、解けたようで
もう熟睡してしまい、自分の降りる駅を二度も
通り過ぎてしまったことを覚えています。



彼女が次に家に来た時に、こんな状態は良くないということを告げ、
わざと彼女の要求を断り、お引取り願いました。
もう終わりにした恋を、燻っている思いを また燃え上がらせても 
待っているのは「罰」しかないように思えたから・・・。
またそうなってもいいと思う気持ちも見え始めていたから・・。

ひどい男でしょうか?
でも
当たり前のことですが、彼女も新しく踏み出した生活は大事でしょうし。
そちらの道を選んだのも彼女自身なのですから。
そしてわたしも彼女無しの人生に、こころ押さえつけた後だったのですから・・。


その日以来、彼女とは会っていませんが、
一度だけ、彼女に電話をしました。
年賀状に転勤でベルギーに行かれるとありましたので
・・・・一言だけ、電話の向こうのその人に言いました。
 「・・お幸せに」  

 
  ぼかしたり端折ったりはしていますが、全て実話です。
  くさい文章に最後までお付き合いくださり誠にありがとうございました。