『桜の娘』 ・・・1ページ絵本 |   希夙の絵本とイラストと☆彡

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宇宙からの目で伝えます
 



『桜の娘』
           絵 文 希夙



昔々のお話です



山の上に 大きな桜の木がありました



その桜には

こびとの ひとり娘がおりました



その娘のために 毎年春になると 

桜は「
愛おしや 愛おしや」と みごとな花を咲かすのでありました






ある夏のはじまりに その山の桜の木の上に

おどろくほどの大きな星が 突然姿を現わしたのです



その星は 夜空だけでなく

昼も 美しく強く輝き

見上げる桜の小さな娘は ついには恋をしてしまったのでありました



「美しい大きな大きなお星様 どうぞわたしに会いに来て」

その小さな手をのばし

くる日もくる日も 天にむかって祈るのを

桜の木は 見守るしかないのでありました



秋になるころ

南に渡る一羽の若いツバメが

雲の合間からその様子を見かけ

「どうせここを離れるんだから ちょっと悪戯していこう」

と降りてきました




「桜の小さなお嬢さん

私は 天の大きなお星様の使いの者でございます」

 

ツバメの言葉を信じ 桜の娘が どれほど喜んだか



「星の王様からのおことづけ

『桜の花の花びらを 億枚集めてくれたなら 

あなたに会いに参りましょう』

お分かりいただけましたかな」

そう言うとツバメは ひらりと高く空へ舞い上がり


小声で

「あんなちびさんに 
できるわけなどありゃしない」

と 笑いながら南へ渡っていきました






つぎの春

戻って来たツバメは

今まで誰も見たことのない 山のように花を咲かせた

桜の木を見たのです


そして 桜の木の下で




風に舞い散る花びらを 昼も 夜も集めている

桜の娘を見たのです



あの星の王様の輝きが 昼に見られることがなくなったので

「早くしないと はるか遠くへ行ってしまわれる」

と 娘は休むことなく 集め続けていたのでありました



集めた桜の花びらは

桜の木の うろにびっしり詰められて

風にさらわれていかぬよう きちんと蓋がしてありました



大地が夜に沈むころ

ツバメは

「これが最後の一枚」と 桜の花びらを握りしめた娘の 輝くような笑顔を見ました


そうしたら急に怖くなり いてもたってもいられなくなって

白い腹を泥につけると 音もなく木のうろに飛んで行き

そーと蓋を開け 桜の娘の集めた花びらを ぜんぶ翼で吹き飛ばしてしまいました



やがて 月が木を照らし

うろを見た 桜の娘は 狂ったように 泣き叫び 

吹き飛ばされた
桜の花の花びらを 集め直すのでありました



夜半に月は雲に消え

雨が降り

ツバメは もう大丈夫と眠りました

無数の桜の花びらが 小川になって流れていくのを見たからです







静かな静かな朝がきました



桜の娘は眠っているようでありました

かすかな風が

桜の木の芽ぶいたばかりの若葉を落とし

木の肌を裂いていきました


ツバメはやっと

自分のしてしまったことが分かったのです


娘の体をゆすりながら

涙を流して謝りました

どんなに謝っても

桜の娘の小さなからだは

もう 動くことはありませんでした



やがて夜がやってきて

ツバメは桜の花びらを

くわえて あの星に向かって飛んでいきました

そして 二度と帰ってきませんでした







雪が大地を覆った後に

再び 春がめぐってきました





娘の恋こがれたあの星は いつしか空から消えました

そして あの山の桜は 朽ちて土となりました


でも 河原や畑や学校の端で

桜は今も なくした愛しい小さな娘を思い

たくさんの淡い美しい花を咲かせ

花びらを 一枚一枚散らします

そしてその後 ひと時の間 


桜が 星をやどすようになったのは

深く悔いて 娘のために星へと消えたツバメの 思いであるのです











萌黄おしまい