言われてトロットの姿をよく見ると、アーチ状の体に沿うように曲線的になっている連結鞍が装着されている。鞍は3つ。どのように乗るのかは謎である。
「タクトさんは前、レイラさんは一番後ろで」
ナオミに言われて、タクトは困った顔をする。
「えっ、オレが前なんですか?なんか怖いな……」
「一番怖いのは真ん中なんですよ。試しに座ってみますか?」
「い、いえいえ結構です!」
慌てるタクトの顔を見て、ナオミはくすりと笑った。
「トロ、伏せ」
ナオミのかけ声で、トロットが胴体を地につけ、長い脚を伸ばすようにする。少しだけ体高が低くなった。ナオミが鞍の鐙革をめいっぱい伸ばしてくれる。
「反動をつけて、一気にまたいでください」
言われるままにすると、ナオミが背中を押して手伝ってくれた。何とか鞍の上にのぼることができてほっとする。
「安全ベルトがあるので、しっかり締めてくださいね。あと、鞍の前に手すりみたいなのありますよね。怖かったらそこを持っていてください」
言われたようにしている間に、ナオミがひらりと鞍にまたがる。続いてレイラも乗った様子だ。
「さらば、いざ行かん」
横目でタクト達の動向を確認していたセルウィンはそう一言発すると、フィアンセの腹を軽く蹴った。フィアンセが小さく跳ね、一気に駆け出す。サーヤとクリスもそれに続いた。
「あれ、もう行っちゃいましたよ。大丈夫ですか?この子のんびりしてそうですけど」
タクトが不安になり少し振り返ると、ナオミの口元には挑戦的な笑みが浮かんでいた。心なしか、目つきが先程と違って見える。
「ふふ、なめないで。余裕よ。行くわよ、トロ!」
ナオミが鞭を振ると、カマドウマは勢いよく立ち上がり、信じがたいスピードで走り出した。上下運動がすさまじい。
―なんだこれ!こんな恐ろしい乗り物があるなんて―
タクトは一瞬そう思ったが、次の瞬間には思考がストップした。とにかく手すりを力いっぱいつかみ、上下運動の衝撃を吸収することに必死になったからだ。
ふと気が付くと、目の前に1メートルほどの高さの岩が迫ってきていた。フィアンセとサーヤは左右に分かれ、岩の横をすり抜けて行く。が、トロットはなぜか進路変更をしない。
「ええ!ぶつかる!」
タクトが叫ぶと、後ろから声が聞こえる。
「かけ声出すわ。体を前に倒して。…ハイッ!」
トロットの体が、宙に浮いた。
〈おまけ〉
トロットは、普段のんびりしていますが跳びはねるのが得意です。
カマドウマがそういう感じの昆虫なんですよね。本気出すと、かなり高くとべるみたいです。飼育ケースに頭ぶつけることあるとか…。
そんなわけで、1メートルくらいの岩なんて余裕だろうと思います。岩を跳び越えようとするシーンは馬の障害飛越のイメージですね。オリンピックの試合で観たことある人いると思いますが、支柱を立ててそこに横木をわたしたようなのをぴょんぴょん跳んでいくやつです。あれ、脚が触れると落ちてしまう仕組みになっています。落とすと減点なんですよ。そういえば野外の試合は落ちない障害です。岩の場合、野外により近いのかも。
私が学生時代にやっていた試合での写真です。恥をしのんでのせておきます。本当はカラーの写真があるはずなんですが行方不明でして。これは、会報みたいなのにその写真を印刷したものです。この馬の虚無の表情よ。普段からぼんやりしている子で、跳ぶ時も何も考えてない感じでした。踏み切りが合っていようがいまいが跳んでしまうので、うっかり振り落とされたことが何度もありました…。
落ちるととても痛いので、セルウィン達にはできるだけ落ちてもらわないよう気をつけたいと思います。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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